研究課題
(1) φNIT1のゲノム解析と感染補助因子の探索1, 2, 3:φNIT1と同様のpghPを有する納豆菌ミオウイルス型ファージ9株についてlevP遺伝子の存在を解析したところ、いずれも遺伝子を保有していた。LevP遺伝子の存在する制限酵素断片のサイズが異なるものが見られたが、levPおよび周辺領域の塩基配列はいずれの株でも保存性は高く、周辺の変異が少ないことが明らかになった。従って、levPはpghPと同様、納豆菌ファージが納豆の糸のバリアを破って感染する際に機能していると考えられた。事実、大腸菌で発現させた組換えLevPを作用させることにより、ファージの吸着の増加が確認された。4:宿主認識物質の特定:候補となる3つの推定尾部繊維遺伝子のうちORF1166について、ファージ尾部状バクテリオシンであるカロトボリシン(Ctv)の尾部繊維として組み込むことにより、納豆菌には結合できるが、枯草菌には結合できない改変Ctv作成に成功した。(2) pghP及びその他の感染補助因子の発現調節機構の解析1: pghPおよびlevPの発現調節に関わると考えられた4つの推定シグマ因子候補をコードするorfのうち、配列の特徴から可能性が高い2つの遺伝子に注目し、それらをlacプロモーター下流につないだシグマ因子発現プラスミドを作成した。一方、プロモーター活性をモニターする系として、lacZをレポーターとし、宿主納豆菌ゲノムのamyE遺伝子上に組みこむことでコピー数を限定できるプロモ―ターアッセイ用ベクターを用い、pghPのプロモーターのうち、遠位のプロモーターを組みこんだ納豆菌株の作成に成功したが、残りのpghP近位プロモーターおよびlevPの2種のプロモーターについては納豆菌で組換え体は得られなかった。そこでホストを枯草菌ISW1214株に変更してモニター株の作成を進めている
3: やや遅れている
本年は納豆菌におけるモニター株の作成に手間取った。納豆菌は自然形質転換能が低いこともあり、4つのプロモーターうち残り3つのモニター株の作成はできなかった。しかし、宿主を枯草菌ISW1214株に変更したことで形質転換のステップはクリアでき、組換え体取得の目処がついた。現在組換え体の取得を進めているところである。こちらはほぼ完成している。従って当初23年度に行う予定であった(2) pghP及びその他の感染補助因子の発現調節機構の解析、ならびに平成24年度に計画していた(3)Bacillusにおける発現系の確立のための基礎はほぼ完成した。一方、(1)で計画した納豆菌ファージSP50及びφNIT1類似納豆菌ファージのゲノム解析は、pghPおよびlevP周辺を中心に進め、部分塩基配列を決定した。SP50についてはPCRスキャンにより、全体の類似性を確認した。本年になって、データベース状にφNit1と全体のゲノム構成が類似した枯草菌ファージの全塩基配列が公開された。そこでφNit①のゲノム公開作業を進める一方、論文作成を進め、現在共同著者間で改稿作業中である。また同計画中の宿主認識物質の特定は、ファージ側因子の一つである推定尾部タンパク質(ORF1166)の同定に成功し、現在他の2候補についても検討中であり、順調に進んでいる。
(1)φSP50のゲノム解析:最近公開された近似ファージの配列、およびPCRスキャンの結果をもとに、効率的に解析を進める。(2) pghP及びその他の感染補助因子の発現調節機構の解析および(3) Bacillusにおける発現系の確立:現在進めている枯草菌ISW1214株によるモニター株の構築が完成次第、先に作成したシグマ因子発現ベクターによる当該プロモーターの発現活性を確認する。活性が見られない場合、納豆菌と枯草菌の違いに起因する可能性が考えられるので、公開されている両者における調節タンパク質群の違いを精査する作業を並行して行う。以上をもとに、感染時におけるpghP/levP発現調節系を解明する。一方、枯草菌ISW1214株に感染する枯草菌以外のファージによって導入したプロモーターが活性化するかどうかを探ることにより、ファージ感染を利用した導入遺伝子の発現系構築の可能性を探る。以上により、本研究の最大の目的である「ファージ粒子と共に外来遺伝子を発現させ、溶菌に伴って菌体外に放出させる発現系構築の基礎を作る」ことを達成し、モデルタンパク質を用い、結晶化等に応用できるレベルの発現量を得ることを目標とした実証実験を行う。
24年度には当初より予定していたPCRの更新を行ったが、震災後不調であった冷凍庫および超低温冷凍庫が完全に故障したため、それらの更新のための支出があった。一方で塩基配列決定用試薬等の消耗品は、ほぼ計画通りに収まった。25年度は目標に向けて研究を加速するために試薬を購入するとともに、早い時期に状態の悪い機器の更新を行う。また現在作成中の論文を投稿するための諸経費、および年度末に成果を発表するための旅費の支出を予定している。
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Biosci. Biotechnol. Biochem.
巻: 76 ページ: 1051-1054
10.1271/bbb120165