研究課題/領域番号 |
23580109
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
中川 智行 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70318179)
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キーワード | Candida boidinii / alcohol oxidase / peroxisome / oxygen |
研究概要 |
AOD活性発現における呼吸鎖の役割:AODの活性発現および遺伝子発現における呼吸鎖の影響を観察するため、メチロトローフ酵母Candida boidiniiの呼吸鎖欠損株ρ-株を作成した。ρ-株はグリセロールやエタノールなどの非発酵炭素源と同様、メタノールに生育することができず、その際、AODの発現はほとんど観察されなかった。また、AODと同様にペルオキシソームに局在するDASおよびPMP20も酸素により誘導され、呼吸鎖を欠損することでその発現は著しく低下した。一方、AODが局在するペルオキシソームを構成する膜タンパク質PMP47は、遺伝子発現がメタノール依存的であることが知られているが、酸素環境には遺伝子発現が影響されず、呼吸鎖の有無もほとんど影響を与えなかった。 酸素のペルオキシソームの形態に及ぼす影響:ペルオキシソーム局在のAOD、DAS、PMP20の遺伝子発現が酸素依存型であり、またその酸素認識には呼吸鎖が重要であったことから、酸素環境がペルオキシソームの形態に及ぼす影響を観察した。メタノール/有酸素環境下ではC. boidiniiは巨大なペルオキシソームを細胞内に構築したが、酸素を制限した場合、その形態はグルコースを炭素源とした場合と同様、小さいものであった。 これらのことから、メチロトローフ酵母のメタノール代謝は、代謝の末端に位置する呼吸鎖の活性により酸素状態を認識し、その活性に合わせて初段階酵素AODの活性発現を制御することで、巧妙にメタノール代謝を制御していることが明らかとなった。一方、ペルオキシソーム局在タンパク質は呼吸鎖依存的に活性発現が制御されているものの、ペルオキシソームの形態および機能を維持する因子(例えばPMP47)は酸素依存的ではなく、呼吸鎖活性とは独立してその発現が制御されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最重要目的は、メタノールを唯一の炭素源として生育できるメチロトローフ酵母の産業利用における最大の弱点、低酸素環境下での細胞機能の低下の詳細を理解することを目的に、本酵母の酸素認識と細胞内酸素情報ネットワークによるメタノール代謝制御の分子機構を①「呼吸鎖による酸素認識」と「呼吸鎖から核への情報伝達系」の分子メカニズムの解明② AODからの代謝情報による「AODと呼吸鎖の代謝バランス制御」の分子機構の解明、の観点から明確にすることである。 「呼吸鎖による酸素認識」に関しては、本年度、呼吸鎖欠損株を作成し、その挙動を解明することができたため、おおむね目標を達成したものと考えている。また、「AODと呼吸鎖の代謝バランス制御」の分子機構の解明では、AODが局在するペルオキシソームの形態とその機能に必要なPMP47の酸素に対する制御を示すことができたため、こちらの目標も、2年目で達成すべき項目は、おおむね達成できたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までは、呼吸鎖阻害剤の影響、ミトコンドリアDNA欠損株ρ-株の解析など、AODの酸素に対する発現制御における呼吸鎖の関与を間接的に観察するのみであった。最終年度では、呼吸鎖の主要因子シトクロムCの遺伝子欠損株を獲得し、酸素によるAOD発現における呼吸鎖の関与について直接的な観察を行っていく。 最終的には、その酸素認識およびミトコンドリア呼吸鎖→核へのシグナル伝達の仕組みを明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的に、研究遂行に必要な培地、試薬、遺伝子研究関連キット、チップ、シャーレなどの消耗品を中心に研究費を使用していく予定である。 また、学会(日本生物工学会、日本農芸化学会、酵母遺伝学フォーラムなど)での発表や情報収集のための旅費、研究打ち合わせのための旅費に利用する予定である。
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