メチロトローフ酵母は、メタノール代謝の際、初段階酵素アルコール酸化酵素(AOD)と末端の呼吸鎖で酸素を利用する必要はあることから、両者が局在するオルガネラ、ペルオキシソームとミトコンドリアでの酸素の消費割合を厳密に制御し、代謝を巧妙に整えていることが考えられる。我々は昨年度までに、AODの遺伝子発現が酸素依存的に行われ、その制御には呼吸鎖が関与することを間接的に証明してきた。本年度は、その制御系における呼吸鎖の重要性を直接観察するため、呼吸鎖の重要因子、シトクロムcの欠損株を獲得し、そのAODおよびメタノール代謝酵素群の発現制御における役割を観察した。 メチロトローフ酵母Pichia pastorisは、すでにゲノム情報が公開されているため、本酵母のシトクロムc遺伝子破壊株を作成した。その遺伝子破壊株cyc1Δ株は、グルコースには生育可能であったが、非発酵炭素源であるグリセロールには生育できなかった。また、メタノールへの生育能も完全に失っており、メタノール代謝には呼吸鎖活性が重要であることが分かった。さらに、cyc1Δ株ではAOD発現は著しく低下し、ホルムアルデヒド脱水素酵素やギ酸脱水素酵素、カタラーゼ等のメタノール代謝に関与する酵素群の誘導も低下していた。 また、Pichia methanolicaのAODアイソザイムの酸素発現を知るための基盤として、各種炭素源による発現応答を明らかにした。これにより、嫌気状態で生育を伴ったAODの酸素応答を観察するための条件を探索する礎を示すことができた。 これらのことから、これまで呼吸鎖阻害剤や呼吸鎖欠損株で示してきた「呼吸鎖がAODやメタノール代謝酵素群の酸素応答における重要性」を遺伝子レベルで示すことができ、今後、本酵母の酸素応答機構における研究進展の基盤を構築することができた。
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