研究課題/領域番号 |
23580111
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
邊見 久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60302189)
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キーワード | アーキア / イソプレノイド / メバロン酸経路 |
研究概要 |
アーキアのメバロン酸経路において最終段階の異性化反応を触媒するタイプ2イソペンテニル二リン酸イソメラーゼについて酵素学的な解析を実施した。好熱性アーキア由来の同酵素は、基質の非存在下では8量体を形成し、基質の添加により4量体に解離することが示されている。8量体形成には基質結合に重要なアミノ酸が使われており、したがって8量体のままでは酵素は活性を持たない。したがって同酵素における、多量体形成を伴った活性制御機構の存在が予想された。その証明のため、8量体を形成できず、常に4量体で存在する変異型酵素を作製した。さらに、4量体形成部位に変異を導入することで、単量体で安定に存在する変異型酵素の作出にも成功した。今後これらの酵素を用いることで、同酵素の活性制御に関する知見を得ようと考えている。また、同酵素の、還元型フラビンを補酵素とした特殊な反応機構については、計算化学による解明を進めている。 大半のアーキアにおけるメバロン酸経路は、古典的経路とは一部反応が異なると考えられているが、情報が不足しており実体は未解明である。しかし一部の好熱性アーキアのゲノム中には、真核生物などで解明が行われた古典的メバロン酸経路の全酵素のホモログがコードされている。これらのホモログ遺伝子を単離し、組換え酵素を用いて酵素活性を検証した。さらに、放射標識基質を用いたトレーサー実験により、アーキアの細胞破砕液中に存在するメバロン酸経路の酵素活性を検出した。その結果、アーキアにおいてはきわめて例外的な、古典的メバロン酸経路の存在を証明することができた。さらに、他種のアーキアから、アーキアに特有と考えられている新奇メバロン酸経路に関わる新奇酵素の探索を進め、複数の候補を得ることができた。現在詳細な酵素学的解析を進め、同経路への関与を証明しようと試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タイプ2イソペンテニル二リン酸イソメラーゼに関しては、当初計画よりも大幅に研究が進展し、予定外の成果をあげることもできた。その一方でアーキアの新奇メバロン酸経路に関する研究は予定したほどには進んでいない。その理由として、第一に酵素の活性測定に用いる基質の調製に手間取ったことが挙げられる。過去の報告通りの調製方法が上手くいかず、現在原因を究明中である。NMRなどの解析には大量の基質調製が必須であり、早めにこの問題をクリアしたい。第二に、アーキアの遺伝子破壊が難航していることが挙げられる。これは本技術がそもそも未成熟なためであり、次年度中の成功に期待したい。一方で、メバロン酸経路関連酵素の結晶構造解析が進行しているなど計画外の成果が得られており、研究全体としては順調な進展度合いと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
タイプ2イソペンテニル二リン酸イソメラーゼに関しては、これまでに作製した変異型酵素、および新たに作製する変異型酵素を利用して、多量体構造と酵素活性の関連を明らかにする。また、計算化学による同酵素の反応機構解析も継続して進めて行きたい。 新奇メバロン酸経路については、これまでに単離した関連酵素候補が触媒する反応を、生成物のMS、NMR解析により明らかにしたい。それらの生成物が同経路の中間体であるか否かは、トレーサー実験により確認するつもりである。また、遺伝子破壊実験については、必要に応じて共同研究も視野に入れつつ、継続して研究を進めたい。未知反応の解明により、最終的に同経路の全体像を明らかにするのが目標である。さらに、一部酵素については結晶構造解析が進行中であるので、構造学的なデータをもとにした研究も行って行きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
予算の大半は試薬や研究機材、キットの購入に充てる予定である。特に放射標識試薬は高価だが、トレーサー実験において必須なため、かなりの部分がその購入に費やされるはずである。また、結晶構造解析に関する設備を充実させることを考えている。その他の予算は主に学会発表のための旅費、論文の投稿料、論文執筆時の英文校閲料などに使用される。
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