研究課題/領域番号 |
23580114
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
大島 拓 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50346318)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 微生物 / 転写制御 / サイレンシング / H-NS |
研究概要 |
本年度は、大腸菌内で、H-NSタンパク質により発現がサイレンシングされているLEE1遺伝子およびybdO遺伝子のプロモーターを用い、その転写抑制および脱転写抑制の試験管内再構成を試みた。LEE1プロモーターおよびybdOプロモーターを、ゲノムDNAを鋳型としてPCRにより増幅した後、pSRプラスミドのターミネーター配列上流にクローニングした。構築したプラスミドを鋳型として試験管内転写反応を行ったところ、それぞれのプロモーターからの特異的転写産物を検出できた。次に、精製H-NSを加え、試験管内転写反応を行ったところ、H-NSは、LEE1およびybdOプロモーターを特異的に抑制した。さらに、大腸菌内で脱サイレンシング因子として機能するLerおよびPchタンパク質を加え、脱サイレンシングの試験管内再構成を試みた。その結果、Lerは量依存的にLEE1のH-NSによるサイレンシングを増強するが、脱サイレンシングは引き起こさなかった。また、Pchは、サイレンシングに影響を与えなかった。加えて、LerおよびPchを同時に加えた場合でも、Lerのサイレンシング増強効果のみが観察された。このことから、Lerは、他の因子の補助なしでは、基本的にH-NSと協調して、サイレンサーの一部として機能すること、Pchの本来の活性は、現在の再構成系では再現できていないことが判明した。そのため、Pchの機能に大きな影響を与えることが報告されている精製IHFを加えた再構成系を新たに構築し、LerとPchによるLEE1プロモーターの脱サイレンシング活性を観察する予定である。同時に、Pchに依存した、サイレンシングから脱サイレンシング複合体への切り替えがLEE1プロモーターの脱サイレンシング機構の重要なポイントであることが予想されたことから、複数の細胞内レポーターアッセイ系を構築中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、H-NSによるサイレンシング、および、その脱サイレンシングの試験管内再構成系の構築を第一の目標として実験を進めた。まず、H-NSによる転写のサイレンシングが確認されているLEE1およびybdOプロモーターを用いたH-NSによるサイレンシングの試験管内再構成を実施した。構築したプラスミドを鋳型とした、試験管内転写は良好に観察された。次に、確立した再構成系に、LerおよびPchタンパク質を加えたところ、Lerによる負の自己制御が観察された。これまで、LEE1プロモーターの試験管内再構成と、それを用いたLEE1プロモーターの制御機構の解析に関する報告は限られており、今回の自己制御の再構成は重要な知見である。同時に、この再構成系にPchを加えたところ、残念ながら、Pchのみでは脱サイレンシングを引き起こせなかった。これはPchに加え、新たな因子が必要であることを示唆している。大腸菌内での、Pchによる転写活性化には、グローバルな転写制御因子IHFが必要であることが報告されていることから、この因子を加えた再構成系を構築する予定である。以上の点から、脱サイレンシングは再現できなかったものの、試験管内でのLEE1プロモーターのH-NSによるサイレンシングおよびLerによる自己抑制の再構築に成功し、この系を用いてPchを介したLEE1プロモーターの脱抑制には他の因子が必要であることを明確に示せたことから、このまま、順調に推移すればLEE1プロモーター制御系の試験管内再構成は可能であると判断し、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
脱サイレンシングの試験管内再構成系の確立:LEE1プロモーターに関しては、IHF, Fis等の核様体タンパク質を加えることで、Pchによる脱サイレンシングの再現を試みる。ybdOプロモーターに関しては、LeuO等の転写因子による活性化を確認したのち、H-NSの脱サイレンシングの再現を試みる。H-NS-Hha複合体を用いたサイレンシングの試験管内再構成系の確立:近年、H-NSに加え、そのホモログであるHhaが、サイレンシングに重要な役割を担っていることが示されてきている。上述の試験管内再構成系を用い、Hhaを加えた場合、サイレンシングがどのように変化するかについて解析を開始する。レポーターアッセイ系の構築:試験管内再構成系実験から、LerとPchによるLEE1プロモーターの脱サイレンシングには、他の因子が関与していることが強く示唆された。そこで、K12株の染色体上にLEE1プロモーターとlacZあるいはgfp遺伝子を組み合わせたレポーター遺伝子を構築し、その上で、LerあるいはPchをプラスミド上から発現させたることで、LEE1プロモーターの細胞内での発現を観察する。LerおよびPchの過剰供給による、LEE1プロモーターの転写抑制あるいは促進が見られた場合、IHF、Lrpあるいは、その他の転写因子の欠失株を作成し、LerとPchの機能が、欠失によりどのように変化するかをレポーターアッセイにより確認する。同時にybdOプロモーターに関するレポーター株も構築し、H-NSによるサイレンシングについての解析を進める。特にSE11とSE15株間ではybdOプロモーターのDNA配列が異なっており、それがH-NSによるサイレンシングおよび転写因子による活性化にどのように影響するかを確認する。アセチル化の検討:H-NSのアセチル化によるサイレンシングへの影響の検討を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が生じた要因は、研究の進捗状況に合わせ、予算執行計画を変更したことに伴うものである。また、平成23年度未使用額を含めた使用計画は次のとおりである。基本的に研究計画の変更はなく、LEE1およびybdOプロモーターを用いた脱サイレンシングの試験管内再構成系の構築を引き続き行う。このうち、タンパク質およびDNAの精製、試験管内転写および、その解析に必要な酵素、あるいはRI試薬等の購入の一部に関して、平成23年度未使用額を使用する。加えて、新たにH-NSおよびHha複合体を用いた試験管内再構成系を構築するため、タンパク質およびDNAの精製、ウェスタンブロティングを用いた複合体解析および試験管内転写等の生化学実験費用が必要となる。レポーターアッセイ系の構築のためには、PCRおよび遺伝子クローニング等の遺伝子操作関連試薬あるいはプライマー合成費用等が必要である。この中には、レポーター株の構築、その確認のためのPCRおよびDNAシーケンス費用が含まれる。同時に、活性測定時に必要な試薬が必要である。アセチル化の検討のためには、ウェスタンブロティングのための試薬が必要となる。また、全ての実験を通して必要となるプラスティック製品(チューブ、ペトリ皿等)および大腸菌の培養試薬の購入費用が必要である。本年度は、6月にオランダのライデンにおいて、核様体の国際会議が開かれ、最先端の成果報告がなされることが計画されている。この会議への参加するため、渡航費、滞在費が必要となる。また、解析が順調に進んでいることから、論文投稿および成果発表のための国内旅費が必要になる。
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