平成24年度までに、大腸菌のLEE1プロモーターとybdOプロモーターを用いた試験管内転写系を構築し、構築した試験管内転写系にH-NSを加えることで、H-NSのみによる単純なサイレンシングの試験管内再構成に成功した。しかしながら、脱抑制因子であるPchおよびLerを再構成系に導入しても、LEE1プロモーターにおける脱抑制の完全な再現はできなかった。他方、大腸菌の持つ4つのH-NS相同タンパク質H-NS、StpA、Hha、およびYdgTを、全て、あるいは、一部欠失した株を作成し、これらの株でのPch によるLEE1プロモーターの脱抑制をluxレポーターアッセイにより解析した。また、Hha/YdgT2重欠失株を用いてトランスクリプトーム解析を行った。その結果、H-NS相同タンパク質群による高次複合体形成がサイレンシングに重要で、脱抑制因子は、高次複合体によるサイレンシングを阻害することが判明した。 以上の結果を受け、平成25年度は、サイレンシングに必須な領域をlacZレポーターアッセイにより詳細に決定した。興味深いことに、ybdOプモーターの抑制には、ybdO遺伝子の開始位置から上流に180bpから400bpの領域および下流にの30bpから240bpの領域が必要であった。一方、LEE1プロモーターの抑制にも、Ler遺伝子の開始位置から上流に480bp、下流に300bp程度の領域が必要であった。この結果は、ybdO遺伝子やLEE1領域のサイレンシングには、プロモーターのみならず、転写開始領域の上流および下流を含む広い領域が必要とされることを示している。上記の結果から、完全な形での大腸菌のサイレンシングの試験管内再構成のためには、試験管内において、H-NSホモログ群と転写抑制に必要とされる広いDNA領域とのサイレンシング複合体を再構成する必要があることが強く示唆された。
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