研究課題
我々は廃棄物バイオマスの資源化に有望な複合微生物発酵法=メタ発酵法の確立を目指している.本研究ではその例として,非殺菌生ゴミの高温嫌気-好気発酵について, まず細菌群集の詳細な構造を知った上で,各細菌細胞系統情報と機能の微視的視覚化を行い,各種制御因子に対する発酵と群集構造レスポンスを解析することで新しい概念であるメタ発酵系の制御の体系化を試みる. 今年度は温度条件を変えた生ゴミの非殺菌乳酸発酵系の対原料収率,有機酸中選択性,光学純度などのレスポンスを明らかにすると共に,各発酵系の増幅16SrRNA遺伝子の変性剤濃度勾配電気泳動(DGGE)による解析から細菌群集構造の時間変化を明らかにした.その結果,最も高い選択性,光学純度を示したのは50度Cの場合であり,この時発酵開始時には必ずしも優勢ではなかったバチルス属の細菌(群)が発酵中の主要微生物となり,安定に推移することが判った. 同時に,構成微生物の分担機能と相互作用を解析するために,フィードバック分離の概念とコロニーレベルでのTOF-MSグルーピングの手法を適用して,発酵系より当該微生物の純粋分離を試み,いくつかの構成微生物の単離に成功した. これとは別に,非殺菌系発酵において蛍光In Situハイブリダイゼーションにより当該微生物群の動態を観察するためにグループ特異的なプローブの設計と染め分けのための条件について検討した.現在,細胞伸張から代謝活性を検出するDVC法を適用することで,各種基質に対してレスポンスをする微生物群の検出を試みている.
2: おおむね順調に進展している
開始年度であり,予算の執行等に制限があったことから,当初は計画に対して大幅に遅れていたが,1年間を経過した段階ではおおむね順調に進展している. 当初目的に記載した各項目のうち,細菌群集構造の解析については,制御因子の一つである発酵温度との関係から興味深い結果が得られた.また,フィードバック分離による構成菌の取得は発酵の主要菌については得られているが,DNAレベルでの主要菌のすべてではないため,再度の情報フィードバックを行う計画である. また,FISHによるモニタリングは,使用プローブの候補を絞ることができたので,今後の発酵系に適用していく. 一方,マイクロアレイによる迅速分析については,下記のように現在再考中である. 以上,全体について進捗状況はばらつきがあるが,これらは想定内であり,平成24年度には総合的に検討できる体制が整う予定である.
当初計画していた,マイクロアレイによる迅速追跡については,昨今の別解析法の急速な進展と次世代シーケンサのパーソナル化が進行しつつあるため,利用法を限定した方が長期的な戦略としてはよりよい選択かもしれない.今後その可能性も含めて検討を進める.但し,プライマー設計などの基礎情報は,網羅的解析のためのツールとして生かしつつ,手法の修正に含みを持たせて進めていく.また,研究代表者と同一の研究機関,所属研究室に田代幸寛助教が着任したので,本プロジェクトの分担者として参画して頂き,発酵成績と菌相変化との相関解析について分担して頂く.
平成24年度は平成23年度に固めることができた研究体制と手法をさらに発展させていく.主な研究費費目は消耗品(マイクロアレイに変わるプローブ合成,DGGE-クローニング解析,FISHなど),成果発表のための学会参加旅費,及び投稿原稿英文校閲費などである.
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Soil Science and Plant Nutrition
巻: 57 ページ: 519-528
Waste Management & Research
巻: 29 ページ: 565-570