研究課題/領域番号 |
23580118
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
小嶋 郁夫 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (90315581)
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研究分担者 |
上松 仁 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (20435407)
春日 和 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (40315594)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 抗生物質生産 / バイオマス |
研究概要 |
(1) 天然より分離したセルロース資化性放線菌Streptomyces thermocarboxydus C42およびStreptomyces argenteolus M178より分泌性のセルラーゼ遺伝子群をクローン化した。すなわち、C42株よりcelA (372aa)とcel1 (747aa)、M176株よりcelA (459aa)とcelB (290aa)を得た。これらは、これまでにStreptomyces属放線菌より分離された4グループのセルラーゼ遺伝子群中の3グループに分類できた。なお,放線菌ゲノム研究からは、さらに10グループのセルラーゼ遺伝子群の存在が示唆されている。 また、セルロースやヘミセルロースを基質としてヨウ素溶液(Gram's iodine)染色によりセルラーゼやヘミセルラーゼの活性を判定する新しい方法を確立した。(2)セルロース非資化性のカスガマイシン(KSM)生産菌Streptomyces kasugaensisにセルロース資化性を誘導するため,クローン化したC42株のcelA とcel1を2種の高発現プロモーターに連結して,同一転写方向に連結させた発現カセット(PrpsJ-cel1-Pneo-celA)を構築した。さらに、セルロースがセルラーゼ分解により生じるセロビオースの資化に必要なcebオペロン遺伝子群cebEFG-bglCとABC輸送体遺伝子msiKを、ゲノムが解読されたStreptomyces coelicolor M145よりクローン化して発現カセットを構築した。しかし、これら2種の発現カセットをS. kasugaensisの染色体に組込んだ多重導入株は、セルロースを資化できなかった。すなわち、セルロース資化誘導には、celAとcel1に加えてC42株の他のセルロース分解関連酵素遺伝子群が必要であることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(i) 天然より分離したセルロース資化性の放線菌株(C42株、M178株)より3グループに分類された4種のセルラーゼ遺伝子群(celA、celB、cel1);(ii) ゲノムが解読されたS. coelicolor M145よりセロビオースの資化に必要な遺伝子群(cebEFG-bglCとmsiK);をそれぞれクローン化した。さらに、得られたC42株のセルラーゼ遺伝子群(celA、cel1)およびセロビオース資化関連遺伝子群より発現カセットを構築できた。 しかし、これら発現カセットをセルロース非資化性S. kasugaensisに導入することにより、セルロース資化誘導にはさらなるC42株のセルラーゼ関連遺伝子群が必要であることも明らかとなった。なお、現在進行中のC42株のゲノム解析(平成24年度研究計画)からは、本菌には celAとcel1以外に複数のセルラーゼおよびキシラナーゼ推定遺伝子群が存在していることが判っている。 また、これまでにセルラーゼ活性判定に汎用され、本研究でもセルラーゼ遺伝子群のクローニングに利用したカルボキシメチルセルロース(CMC)を基質として、この酵素分解をコンゴ―レッド色素染色により判別する方法に代えて、ヨウ素溶液による染色法を確立した。本法では、CMCに加えてセルロースやヘミセルロースなどの分解も迅速に判定可能であることから、新たなセルラーゼ関連遺伝子群のクローニングに向けて展開が開けた。 このように、本年度はS. kasugaensisにセルロース資化を誘導可能な遺伝子発現カセットは構築できなかったが、4種のセルラーゼ遺伝子群とセロビオース資化関連遺伝子群を分離し、さらにセルラーゼやヘミセルラーゼ遺伝子群のクローン化に向けての重要な知見を得ることができたことから、目標はほぼ達成されたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ヨウ素溶液(Gram's iodine)染色によるセルラーゼ・ヘミセルラーゼの活性測定法を用いて、セルロース資化性放線菌C42およびM178株からセルラーゼ・ヘミセルラーゼ遺伝子群のクローン化を行う。得られた遺伝子群は塩基配列を決定してこれまでに報告されているセルラーゼ遺伝子群のグループに分類する。ヘミセルラーゼ遺伝子群についても同様に研究を進める。これら遺伝子群については、適宜、発現カセットの構築を行う。(2)セルロース資化性放線菌C42株のゲノムを解読して、そのドラフトシークエンスからセルロース分解に関連するセルラーゼや、キシラナーゼなどのヘミセルラーゼ遺伝子群についての解析も進める。(3)同様にC42株のゲノム情報をもとに、セロビオースの資化関連遺伝子群cebEFG-bglCおよびmsiKについて解析を進める。さらに、これらセロビオース資化関連遺伝子群をクローン化して発現カセットを構築する。(4)得られたセルラーゼ・ヘミセルラーゼ遺伝子群およびセロビオース資化関連遺伝子群の発現カセットをセルロース非資化性のカスガマイシン(KSM)生産菌S. kasugaensisに導入してセルロース資化誘導について検討する。資化性が誘導された導入株については、セルロース、稲わら、木粉、米ぬかなどのセルロース系バイオマスを原料としたKSM発酵生産について検討する。(5)C42株のセルラーゼは菌体外への分泌酵素である。そこで、クローン化された遺伝子群については大腸菌の系などにより大量調製と精製を行い、さらにSDS-PAGE分析により単一タンパク質ピークとして分取後に、N末端のアミノ酸配列を決定する。このようにして分泌に必要なリーダーペプチドの同定も行う。調製された酵素について、セロルースなどを基質として酵素反応を行い、分解様式を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究計画の中心であるセルロース資化性の放線菌C42株からのセルラーゼやヘミセルラーゼなどの遺伝子群、およびセロビオース資化関連遺伝子群のクローニングに関して、遺伝子操作に必要な制限酵素類やリガーゼなどの酵素類やアガロースなどの試薬類、放線菌や大腸菌の培養に必要な培地成分や寒天などの試薬類が必要である。さらに、酵素遺伝子群のクローン化とそのスクリーニングに多量のプラスチックプレートやチップなどのプラスチック製品、ピペット類や三角フラスコなどのガラス器具製品等が必要となる。また、遺伝子群の塩基配列の決定やサブクローニングなどには、DNA合成プライマーを多量に使用する。セルロース資化性のS. kasugaensisが得られた場合は、セルロース系バイオマスを原料としたカスガマイシンの発酵生産実験を行う。この際にも、培養培地成分が必要となる。以上のような研究計画より、物品費として90万円を予定している。 クローン化されたDNAの塩基配列の決定や、酵素遺伝子群のN末端アミノ酸配列の決定を外注する費用として当初は20万円とした。しかし、塩基配列の決定などの外注が増えると予想されたことから、平成23年度から平成24年度に280,643円を繰り越してこの費用もその他(外注)に充てる。 さらに、クローン化されたセルラーゼやヘミセルラーゼ遺伝子群や、平成24年度の計画予定であるC42株のゲノム解析結果を討議するため、研究協力者の国立感染症研究所(東京都新宿区)の石川淳室長および北里生命研究所(神奈川県相模原市)の池田治生教授を各1回ずつ訪問する予定である。小嶋、春日の各自が秋田・東京往復で1泊の2回分の旅費として計20万円を予定している。
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