研究課題/領域番号 |
23580118
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
小嶋 郁夫 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (90315581)
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研究分担者 |
上松 仁 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (20435407)
春日 和 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (40315594)
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キーワード | 抗生物質生産 / バイオマス |
研究概要 |
天然より分離したセルロース資化性放線菌Streptomyces thermocarboxydus C42株およびStreptomyces argenteolus M178株よりセルラーゼ遺伝子群の分離と発現カセットの構築を行った。23年度は、カルボキシメチルセルロース(CMC)の分解活性を利用して、異種放線菌Streptomyces lividansを宿主として、C42株よりcelAとcel1、M178株よりcelAとcelBの計4セルラーゼ遺伝子群を分離した。本24年度は、これら2菌株のゲノム解析によりセルラーゼ候補遺伝子群を分離して発現実験を行い、以下の成果を得た。 ①C42株からは既に分離した2遺伝子の他に7候補遺伝子を見出して全てを分離した。得られた計9遺伝子群は、5種の糖質加水分解酵素(GH)ファミリーに分類され、cel5A(=celA)、cel5B;cel6A、ce6B、cel6C; cel9A(=cel1);cel12A、cel12B; cel48Aと命名した。 ②M178株からは既に分離した2遺伝子の他に8候補遺伝子を見出し、6遺伝子を分離できた。得られた計8遺伝子群は5種のGHファミリーに分類され、cel5A(=celA)、cel5B、cel5C;ce6B、cel6C; cel12A、cel12B(=celB); cel48Aと命名した。 ③これら遺伝子群の強制発現カセットを構築し、セルラーゼ分泌活性を検討した。その結果、C42株のcelA、cel9A、cel12AおよびM178株のcel5A、cel12Aの5遺伝子群は、S. lividansにおいて強いCMC分解活性を誘導した。一方、他の遺伝子群は顕著な分解活性を誘導しなかった。 ④C42株のcelAとcel12A、M178株のcel5Aとcel12Aは大腸菌においても強いCMC分解活性を誘導した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画にしたがって、セルロース資化性のセルラーゼ高分泌性放線菌S. thermocarboxydus C42株およびS. argenteolus M178株についてセルラーゼ候補遺伝子を見出す目的でゲノム解析を行った。 その結果、C42株からは9遺伝子、M178株からは10遺伝子を見出し、さらにクローニングを行いC42株からは全9遺伝子を、M178株からは8遺伝子を分離できた。さらに得られた各遺伝子を放線菌の異種遺伝子発現用宿主であるS. lividansで強制発現させたところ、C42株では3遺伝子、M178株では2遺伝子が顕著なCMC分解活性を示し、これら遺伝子が放線菌内で発現して分泌できるセルラーゼ遺伝子群であることが分かった。特に、基質としたCMCは、セルラーゼのうちでエンド型により分解を受け、エキソ型では分解され難いと考えられていることから、これら5種の遺伝子はエンド型セルラーゼ遺伝子であることが強く示唆された。一方、CMC分解活性を誘導しなかった10種の遺伝子はエキソ型セルラーゼ遺伝子である可能性が高く、したがって、エキソ型活性の測定法を確立して実施する必要がある。 今後は、C42株のゲノム解析から分離した9種全てのセルラーゼおよび候補遺伝子群を利用して、放線菌一般に利用可能なセルラーゼ遺伝子発現カセットをする。したがって、24年度において9遺伝子のうち3種がエンド型セルラーゼ遺伝子であることを実証し、残された6遺伝子がエキソ型遺伝子であるが示唆できたことは極めて意義がある。 以上のように、25年度の研究計画に向けて、エキソ型ルラーゼの活性測定法の確立の必要性と、セルラーゼ遺伝子発現カセット構築のために必要なC42株の9種の遺伝子群を得られたことで、本プロジェクトはおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①放線菌S. thermocarboxydus C42株より得られた6種のセルラーゼ候補遺伝子群がエキソ型セルラーゼ活性を誘導するかについて、ろ紙を用いた分解活性測定法を確立して検討を行う。 ②C42株より分離した9種のセルラーゼおよびその候補遺伝子群を全て利用して、セルラーゼ遺伝子発現カセットを構築する。すなわち、これら遺伝子群の固有のプロモーター配列とリボゾーム結合部位を利用して、9遺伝子全てを有するカセットを構築する。構築できたカセットを放線菌の染色体組込み型ベクターに挿入して、セルラーゼ発現ベクターを構築する。得られたベクターを異種遺伝子発現用宿主のS. lividansに導入し、導入株のセルラーゼ分泌活性について、C42株をコントロールとしてCMCやろ紙などを基質とした分解活性を比較・検討することにより、セルラーゼ発現ベクターの有用性を証明する。 ③23年度にStreptomyces coelicolor M145株由来のβ-グルコシダーゼ発現カセットを構築し、カスガマイシン(KSM)生産菌Streptomyces kasugaensisでの有用性を示した。さらに、25年度はC42株のゲノム解析から見出されたβ-グルコシダーゼ遺伝子群を分離してβ-グルコシダーゼ発現カセットを構築して、新たにKSM生産菌S. kasugaensisに導入する。 ④②において異種放線菌に対してセルラーゼ発現誘導を行うことが示されたセルラーゼ発現ベクターを、③で得られたβ-グルコシダーゼ活性を有するKSM生産菌に導入する。本導入株を用いてセルロースおよびセルロース系バイオマスを原料としたKSMの発酵生産条件を検討する。この時、KSM発現カセットを導入してKSM生産性となったC42株をコントロールとして、本菌株のKSM発酵生産を凌ぐ条件を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
①C42株より分離した9種のセルラーゼおよび候補遺伝子群の全てを利用して、セルラーゼ遺伝子発現カセットを構築する。さらに、β-グルコシダーゼ遺伝子群をクローン化してβ-グルコシダーゼ遺伝子発現カセットについても構築する。これらの研究は、PCR法を用いたクローニング手法を多用し、得られた遺伝子群の塩基配列を確認しながら行う。そのために、DNAプライマーの合成、遺伝子操作実験に必須な酵素等の試薬類が必要となる。また、大腸菌宿主・ベクター系を用いてクローニングおよびその後の遺伝子カセット構築等を行うため、これらに必要な試薬類や寒天・培養培地成分が必要となる。また、プラスチック製シャーレ等も多数必要となる。 ②C42株由来のセルラーゼ発現ベクターおよびβ-グルコシダーゼ発現ベクターを導入したカスガマイシン(KSM)生産菌S. kasugaensisについて、セルロースおよびセルロース系バイオマスを原料にKSMの発酵生産を行う。コントロールとしてKSM発現カセットを導入してKSM生産性となったC42株を用いる。これらベクターの導入実験やKSM発酵生産実験には、培養培地成分やガラス製フラスコなどの消耗品が必要となる。 ③平成25年度の研究費は、①、②のような実験計画に必要な消耗品類の購入に充当する。
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