研究課題/領域番号 |
23580120
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田口 速男 東京理科大学, 理工学部, 教授 (90188136)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アロステリック特性 / 乳酸脱水素酵素 |
研究概要 |
L. caseiのLDHのQ軸サブユニット界面5残基変異型酵素の立体構造を解析した。得られた立体構造は活性型酵素のものとよく一致し、さらにQ軸間の塩橋ネットワークは、Lys235-Glu67間の距離が塩橋にはやや離れていた以外は、L. pentosusの非アロステリック型LDHのものとほぼ同様なものが形成されていた。また、部分的にQ軸塩橋を導入した酵素は、いずれも、野生型酵素と5残基変異型の中間的な特性を示し、これらの塩橋が加算的に調節特性に影響を及ぼすことが示唆された。一方、L. pentosus LDHにおいて、Asp68をAsnとHisに置換したところ、いずれの場合も、基質飽和曲線が双曲線型からS字型に変化し、基質によるホモトロピックなアロステリック活性化効果が生じたことが示された。高度好熱菌Thermus caldophilusのアロステリック型LDHに塩橋ネットワークを導入した結果、活性化因子FBP非存在下での最大反応速度と基質親和性が、それぞれ約10倍ずつ向上した。しかし、基質親和性については、まだ完全に活性化された酵素よりも低いと考えられるので、このQ軸変異に加えて、P軸サブユニット間のArg173に置換変異を導入した酵素も作成し、現在その解析中である。さらに、醸造乳酸菌Tetragenococcus halophilusのLDHは、FBP非存在下でも顕著な活性を示すが、FBP存在下で基質親和性と最大反応速度がそれぞれ数倍から10倍増大する。T. halophilusの酵素はAsp68をもち、Q軸塩橋ネットワークを部分的に備えていると考えられる。そこで、Asp68をAsnに置換して塩橋の完全欠失をはかったところ、得られた変異型酵素は、FBP非存在下で有意な活性を示さず、この置換によって、FBP絶対的要求型のアロステリック酵素に変換されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
L. caseiの変異型酵素の立体構造解析に成功し、おおむね想定していたとおりの構造が得られた。今後、この結果をもとに、L. casei LDHにさらに変異を導入し、その効果を構造との関連の上で評価していくことができる。また、L. casei LDHと進化系統的に大きく隔たるT. thermophilusのLDHにおいても、Q軸ネットワークの導入が調節特性改変に効果的であることが分かり、この変異導入が、多くのアロステリック型LDHに対して普遍的に応用可能であることが強く示唆された。また、L. pentosusとT. halophilus LDHにおけるAsp68置換結果も、想定通り、あるいは想定以上にクリヤーな結果が得られた。これらによって、本研究の細菌LDHの調節特性の鍵構造の解明と調節特性の改変設計法の確立という基本目標の大筋については、達成できるめどがついたものと考えている。 しかし、T. halophilusやEnterococcus faecalisなどのLDHについては、Q軸ネットワークの完全導入をはかったものの、現在までにこれらの組換え変異型酵素の発現、精製には至っていない。これらの酵素では、ネットワークの導入によって構造がかなり不安定になっている可能性も考えられる。今後も、培養条件の検討などによって、これらの酵素の発現精製を引き続き試みていく予定であるが、ネットワークを部分的に導入、強化した変異型酵素の作成や、性質や構造が類似した他のLDHでの解析も視野に入れていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
L. caseiのLDHのQ軸変異については、これまでに、主にAsn67AspとSer68Gluの2重変異型酵素と、これにGlu178LysやAla235Lysの変異を加えた3重変異型酵素を作成し、その性質を検討した。今後は、得られたQ軸変異型酵素の立体構造をもとに、Asn67、Glu178、Ala235にそれぞれ単変異を導入したもの、およびQ5変異型酵素のLys235をArgに置換し、さらに塩橋ネットワークの強化をはかった酵素を作成、解析し、立体構造と関連させながら、個々の塩橋の貢献度を評価していく。また、Q5変異型酵素については、P軸サブユニット間相互作用に関与するるArg173、His188、His216に変異を導入した酵素も作成しつつあり、これらの多重変異型酵素についても解析を進めていく。一方、T. caldophilusのLDHにおいても、Lys235をArgに置換したQ軸変異型酵素や、さらにQ軸変異型酵素にArg173のGlnへの変異、およびArg216のLeuへの変異を導入して、酵素特性の変化を解析する。また、このLDHでは、FBP以外にクエン酸などにも活性化効果がみられるので、変異型酵素についてはこれらの活性化因子の効果もあわせて検討する。T. halophilusの酵素については、安定性の上で難点があり、そのため実験がやや難航していたが、高濃度の塩やベタイン、低濃度のFBPの存在下で安定化することが明らかになったので、これらの結果をもとに上記2つのLDHと同様の解析を続けていく。E. faecalisなどのLDHでは、培養条件などを検討して、組換え酵素の生産性の改善をはかり、検討を試みていくが、必要に応じて近縁株の酵素において同様の検討、解析を行うことも考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、昨年度と同様に、L. casei、T. caldophilus、T. halophilus、E. faecalisとその類縁菌のLDHに、さらに変異を導入し、得られた変異型酵素を精製、解析することが主な実験内容となる。すなわち、変異プライマーの作成、塩基配列の解析を含めた遺伝子操作関連試薬と器材、培養関連試薬、蛋白質の精製と酵素活性測定用の試薬と器材など、多くの消耗品が必要であり、次年度使用額のほぼすべてをこれらの消耗品費にあてる予定である。
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