研究課題/領域番号 |
23580120
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田口 速男 東京理科大学, 理工学部, 教授 (90188136)
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キーワード | アロステリック特性 / 乳酸脱水素酵素 |
研究概要 |
L. casei LDH(LCLDH)において、不活性状態でArg171とα2Fヘリクス内でサブユニット内塩橋を形成するGlu178をGlnに置換した結果FBP非依存的な活性が顕著に増大した。さらに、FBP非依存的な活性は、N68D、A235K、S67Eの置換の追加ごとに加算的に増大し、最終的にサブユニット間塩橋ネットワークを完成させたもので最大となった。これらの結果は、α2Fヘリクスヘリクスを中心としたサブユニット間塩橋ネットワーク、あるいはサブユニット内塩橋の強度がLDHのアロステリック平衡に大きく関与するとともに、細菌LDHの調節特性を多様化させる大きな要因となっていことを示している。一方、T. caldophilus LDH(TCLDH)にサブユニット間塩橋ネットワークを導入すると、FBP非依存的な活性は顕著が増大したものの、基質Km値はFBP存在下の野生型酵素のものよりも約100倍高い数値を示した。しかし、この変異型TCLDHにR173Q、R216Lの置換を導入した結果、このKm値はさらに約100倍向上し、ほぼ完全に恒常的高活性型となった酵素が得られた。この変異型酵素は、野生型酵素と同様に高温で高い活性を示し、野生型酵素のものよりもさらに向上した熱安定性を示した。また、Lys235の代わりにArg235を導入した変異型酵素は、活性と安定性の両面においてLys235型の酵素よりも優れた値を示した。そして、これらの置換解析結果とLCLDHとTCLDHの立体構造比較から、TCLDHにはLCLDHにはみられない特異な正電荷クラスターが複数見出され、このクラスター間の静電的反撥がTCLDHの活性型構造を不安定化する要因となっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
L. caseiのLDH(LCLDH)では、塩橋ネットワークの度合いに応じて、アロステリック特性が多様に変化することが示された。さらに、T. caldophilusのLDH(TCLDH)では、塩橋ネットワークにArg173GlnとArg216Leuの置換を加えることによって、ほぼ高活性型酵素に変換することに成功した。加えて、これらの結果から、Q軸間ネットワークの強度以外に、α2FヘリクスのC末端近傍部とその周辺領域間の静電的相互作用もLDHのアロステリック平衡を決める大きな要因であることが強く示唆された。一方、非アロステリック型であるL. pentosus LDH(LPLDH)をアロステリック化する試みは、前年度で、Asp68Asnの置換によって、アロステリック特性が生じることを示すことが出来たものの、さらにFBP依存性をもたせるようなAsp188His変異などの導入の試みは、現在のところ変異型酵素の可溶性タンパクとしての発現が得られていない。そこで、L. pentosusや類縁菌のL. plantarumがゲノム中にもつ、もう1つのLDHホモログ(ldhB)に注目して、L. plantarumのものについて機能解析を行った。その結果として、このホモログはLPLDHと高いアミノ酸配列の同一性をもつにもかかわらず、興味深いことにオキサロ酢酸を基質とし、かつシグモイド型の基質飽和曲線を示すアロステリクリンゴ酸脱水素酵素であることが明らかになった。この酵素はLPLDHの塩橋ネットワークの一部を欠いており、これがアロステリック特性を生み出す原因であることが示唆される。この酵素の発見は本研究課題において1つの大きな前進であり、また、次年度のLPLDHの改変研究にも好適な研究材料を与えていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
細菌アロステリックLDHの調節の程度(FBPへの依存度など)は、Q軸サブユニット間の塩橋ネットワークのみならず、α2FヘリクスC末端周辺部とQ軸隣接サブユニットと間の静電的な相互作用によって決まることが強く示唆された。すなわち、T. caldophilusのLDHでは正電荷同士の反撥が、そして、L. caseiのLDHでは負電荷同士の反撥が、活性化状態(R状態)を不安定化し、相対的に不活性化状態(T状態)を安定化させていると考えられる。今後は、この仮説を検証するために、両酵素のα2FのC末端部周辺を中心に、電荷を変えるようなアミノ酸置換を多数導入し、これにともなうアロステリック特性の変化を解析することを中心に研究を進め、本研究の主題に区切りをつける予定である。また、非アロステリック型LDHをアロステリック型に改変する試みにおいては、L. plantarumに見出されたLPLDH様のアロステリック型MDHも用いて研究を続行する。具体的には、Asp188His置換を導入してFBP依存性の付与をはかる、塩橋ネットワークを完全化して非アロステリック化をはかる、塩橋ネットワークをさらに破壊してアロステリック特性のより強化をはかる、さらにArg102Glnの置換によってMDHからLDHへの変換をはかる、などの実験解析を予定している。また、これらの研究の発展として、これまで、発現等のトラブルで進展が遅れている他のLDH、T. halophilusやMarinilactobacillus属細菌のLDHなどにおいても、安定に変異型酵素を発現、精製できる実験系の構築をはかり、解析を進めていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、L. caseiとT. caldophilus LDHのα2FヘリクスC末端部周辺、また、この部分と静電的な相互作用をすると想定されるQ軸隣接サブユニットの補酵素結合ドメインに多数のアミノ酸置換を導入して、変異型酵素を作成し、発現、精製して、酵素学的性質を解析する。L. pentosus、L. plantarumの非アロステリック型LDH、アロステリック型MDH、T. halophilusやMarinilactobacillus属細菌などのLDHにおいても同様な解析を継続する。すなわち、多数の変異プライマーの作成と配列解析を含めた遺伝子操作関連試薬や器材、酵素の精製と活性測定に用いる試薬や器材が多数必要であり、次年度使用額のほぼ全てをこれら消耗品の購入費にあてる予定である。
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