研究課題/領域番号 |
23580121
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
藤原 伸介 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90263219)
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キーワード | archaea / chaperon / helicase / cold stress |
研究概要 |
低温誘導型RNAヘリカーゼは、低温誘導型シャペロンのひとつで低温ストレス時にRNA上に形成される2次構造を解消する。超好熱菌の中にも低温ショックで誘導されるRNAヘリカーゼをもつものがいる。今回、超好熱菌Thermococcus kodakarensisの低温誘導型RNAヘリカーゼ(TK0306)に注目し、超好熱菌が低温ストレス下で細胞内秩序を維持する機構を分子レベルで解明することを目的とした。まず本遺伝子の破壊株を構築し、93℃、85℃、60℃で培養して生育特性を調べたところ、破壊株では60℃での生育が衰え、溶菌が認められた。この溶菌現象が硫黄を含まない培地、つまり水素発生型呼吸を行っているときにみられたことから、呼吸系酵素の遺伝子発現に関与していると考えられた。次にカタラーゼを指標とするレポーター系を構築し、TK0306遺伝子の上流域を挿入し、低温誘導に必要な領域を絞り込んだところ、TATA配列までの領域は低温誘導に関与しないことが明らかになった。さらに恒常的に発現しているグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター領域とキメラDNAを構築し、制御領域を調べたところ、リボソーム結合部位から開始コドンまでに存在するTTTTT配列が重要であることを見出した。60℃ではこの領域が低温に依存して転写終結を引き起こしていると考えられる。また、低温誘導型RNAヘリカーゼはステム様構造をとったRNA分子をほぐす活性(unwind活性)を有する。この酵素は逆転写酵素を用いたcDNA合成を効率化すると考えられた。そこで逆転写酵素としてレトロウイルス由来の酵素、細菌由来の酵素をタンパク質工学的に改変したDNA合成酵素を用いて検討を行った。細菌由来の逆転写酵素(DNA合成酵素)には鋳型量に依存した阻害が起こることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温誘導型RNAヘリカーゼをコードするTK0306遺伝子については制御領域を特定することができ、この機構は従来の低温誘導とは異なるものであった。現在、国際誌に投稿中である。また、この遺伝子を破壊した株は硫黄を含まない培地で生育させると定常期にはいった直後に溶菌することが確かめられている。水素呼吸に関係する遺伝子の発現(翻訳)制御に深く関与していると思われる。被制御遺伝子の特定が目下の課題である。また、分子シャペロニン遺伝子cpkAの制御領域の特定は進んでおらず、新規プラスミドを構築して検討しなければならず、次年度への課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
低温ショックシャペロニンcpkAの誘導機構に関してはシスエレメントの絞り込みを完了させる。またCpkAのカルボキシル末端に変異体を構築し、シャペロニンとしての活性変動を検討する。また、低温誘導型RNAヘリカーゼ(TK0306)の被制御遺伝子を特定するために、二次元電気泳動によりタンパク質を分離し、質量分析(LC-MS)を利用して特定を試みる。TK0306 の支配下にある遺伝子の絞り込みを行う。TK0306の機能を他のRNAヘリカーゼと比較するため、同じファミリーにある他のヘリカーゼ分子について発現・精製を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
低温誘導型ヘリカーゼの誘導機構に関する研究が順調に進行したことにともない、予定していた試薬費の支出、研究打ち合わせのための出張旅費が必要なくなり、未使用額が発生した。この未使用額は平成25年度の生化学実験用の消耗品費に充てたい。なお、研究遂行に必要な実験機器・設備は揃っており、平成25年度にあらたに購入の必要なものはない。高速液体クロマトグラフィー用のカラム、遺伝子解析用試薬の追加購入が必要になると思われる。プロテオーム解析のデータ集計にアルバイトを雇用する予定であり、謝金を計上した。これまでの成果は順次学会で発表したい。旅費として学会発表(農芸化学会、生物工学会)を視野に入れ、計上した。また論文投稿を行うにあたり、英文校正代金、投稿代金を加えている。
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