研究課題
本研究では超好熱菌Thermococcus kodakarensisの低温誘導遺伝子について発現制御機構の解明を目指して研究を行っている。昨年度までの研究から低温誘導型RNAヘリカーゼ(TK0306)の制御領域はSD配列から開始コドンまでに存在するAまたはTに富む連続配列であることが明らかになった。超好熱性アーキアの転写はTTTTTTTT配列のところで終結する。TK0306遺伝子の制御領域ではAまたはTに富む連続配列が、SD配列に近接する場合は、温度に依存して転写終結の効率が変わると考えられた。この領域では、温度が高くなるにつれてmRNAは鋳型DNAから遊離しやすくなると予想される。TK0306遺伝子の発現調節は、mRNAの外れる効率、つまり転写終結効率の違いでなされていると考えられる。また、低温誘導が認められている遺伝子のいくつかはSD配列から開始コドンまでにAまたはTに富む配列が存在している。低温誘導型分子シャペロニンであるcpkA遺伝子上流にもこの配列が存在していた。その一方でこの配列を持たない低温誘導遺伝子も存在している。そこで温度特異的に発現している因子の関与を検討した。T.kodakarensisには2種類のTFBが存在し、そのうちのひとつは温度特異的に発現量が変動する。これらが低温誘導に関与しているかを遺伝子破壊行うことで検討したところ、いずれの遺伝子も低温誘導には関与していなかった。また本菌は温度依存的に細胞内のポリアミン組成を変動させ、生育温度が高くなるに連れて分岐鎖ポリアミンの細胞内含量が高くなる。分岐鎖ポリアミンを合成する遺伝子(TK1691)を特定し、その破壊株の生育温度を調べたところ、高温での生育が消失した。この結果は生物が低温への適応を獲得する段階で分岐鎖ポリアミンの生合成経路を欠落していったことを予想させる。
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