研究課題/領域番号 |
23580125
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
本山 高幸 独立行政法人理化学研究所, 化学情報・化合物創製チーム, 専任研究員 (70291094)
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研究分担者 |
廣田 洋 独立行政法人理化学研究所, 支援促進チーム, 協力研究員 (00126153)
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キーワード | イネいもち病菌 / 天然化合物 / シグナル伝達 / 生合成 / 農薬 |
研究概要 |
糸状菌の休眠二次代謝遺伝子を強制的に覚醒させ、利用・解析可能にすることを目的に、モデル植物病原糸状菌であるイネいもち病菌を用いて、環境応答情報伝達系因子の遺伝子操作株と化合物探索用のGUSレポーター株を用いた解析を行った。昨年度、環境応答に関与する二成分情報伝達系の攪乱によりネクトリアピロンとその類縁体の生産誘導が可能であることを明らかにしたが、今年度、DNAマイクロアレイ等を用いた解析により、これら化合物の生合成遺伝子クラスターを同定することに成功した。二成分情報伝達系を攪乱した株を固体培養したところ、新たに別の化合物が生産誘導されることが明らかになった。化合物を同定したところ、テヌアゾン酸であることが明らかになった。テヌアゾン酸はAlternaria属糸状菌等が生産するマイコトキシンであり、タンパク質合成を阻害する。一方、PKS-NRPS遺伝子プロモーターを用いたGUSレポーター株を用いた約400化合物からの活性化化合物探索ではヒット化合物が得られなかった。更に、高レベルで発現するPKS 遺伝子MGG_10912のプロモーターを用いたGUSレポーター株の解析で、イネいもち病菌でのGUSレポーター系の感度が低いことが明らかになったことから、環境応答情報伝達系因子の遺伝子操作等による休眠遺伝子覚醒に集中することにした。二成分情報伝達系攪乱によるネクトリアピロンやテヌアゾン酸の生産誘導とエピジェネティックな制御との関連を解析するために、野生型株をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(SAHA)やDNAメチル化阻害剤(5-azacytidine)で処理したが、生産誘導は認められなかった。この結果から、二成分情報伝達系攪乱株では、これらの化合物による生産誘導とは異なるメカニズムで二次代謝産物が生産誘導されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は環境応答を攪乱することにより覚醒させた二次代謝遺伝子クラスターがつくる化合物を明らかにすること等を目的にした。昨年度、既に二成分情報伝達系かく乱により生産誘導される化合物二つ(ネクトリアピロンとネクトリアピロンの新規類縁体)の構造決定に成功し、今年度はもう一つ別の化合物テヌアゾン酸が生産誘導されることを見出した。更に、DNAマイクロアレイを用いた解析等により、ネクトリアピロンの生合成遺伝子クラスターの同定に成功した。また、エピジェネティックな制御を行う化合物によりネクトリアピロンやテヌアゾン酸の生産誘導が引き起こされないことから、二成分情報伝達系かく乱による生産誘導はこれらの化合物とは異なるメカニズムで引き起こされていることが明らかになった。以上のように、当初の計画以上に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は環境応答攪乱による休眠遺伝子覚醒における覚醒メカニズムの解析を行う。更に環境応答攪乱による覚醒が染色体レベルのエピジェネティック制御によるものであるかどうか明らかにして、最後に覚醒メカニズムの一般性について解析する。 休眠遺伝子覚醒が引き起こされる様々な条件の遺伝子発現をDNAマイクロアレイ等により比較して、クラス分けする。更に、生産誘導される化合物の生合成遺伝子クラスターを同定して解析する。 化合物による休眠遺伝子覚醒を可能にするために、二次代謝制御を行う情報伝達系因子の結合化合物を化合物アレイにより探索する。結合化合物が得られたら、実際に二次代謝活性化を行う活性があるかどうかを解析する。 環境応答攪乱による休眠遺伝子覚醒が染色体レベルのエピジェネティック制御によるものかどうかを明らかにするため、エピジェネティックな制御を行う化合物による処理で同様の休眠遺伝子覚醒が引き起こされるかどうか等を解析する。 環境応答攪乱による休眠遺伝子覚醒の一般性を明らかにするため、イネいもち病菌以外の糸状菌を用いて、イネいもち病菌の場合と同様の方法で休眠遺伝子覚醒が可能かどうかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が198,491円生じた。本年度、GUSレポーター株を用いた探索を中止し、他の方法による休眠遺伝子覚醒に集中することにしたため、GUSレポーター株作製のために予定していた分の遺伝子操作関連試薬の使用量が減少し、次年度使用額が生じた。本年度の変更のために、次年度は、当初の予定以上に遺伝子操作に依存するようになるため、必要な研究費の総額が増加する。そこで、次年度使用額198,491円を増加分にあてる。次年度に請求する研究費120万円とあわせて1,398,491円で次年度の研究を行う。約100万円で物品購入を行い、研究を遂行する。旅費の30万円で研究成果の発表を行う。その他の10万円で英文校閲等を行う。
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