我々は初年度にBacteroides属の分類・同定において複数のハウスキーピング遺伝子を使用した多遺伝子座配列解析(MLSA)の有用性を報告した。本年度は、さらに対象とする菌種の範囲を広げ、Bacteroides属およびその類縁細菌群の分類においてMLSAによる分子系統解析を行った。 供試菌としてBacteroides属を中心に10属(Bacteroides属38種、Barnesiella属2種、Butyricimonas属2種、Dysgonomonas属3種、Odoribacter属2種、Parabacteroides属5種、Paraprevotella属2種、Porphyromonas属13種、Prevotella属39種およびTannerella属1種)107種を用いた。なお解析に用いた多くの遺伝子配列は、各対象遺伝子を標的にプライマーを設計し、PCR増幅後、シークエンスし塩基配列を決定したが、一部は既に公開されているゲノム情報より取得し、解析に用いた。 各遺伝子の種間類似度を比較したところ、dnaJ遺伝子が51.7-98.5%と最も低い種間類似度を示し、rpoB遺伝子が62.2-99.4%と最も高かった。dnaJ遺伝子に次いで、gyrB遺伝子(55.4-99.9%)、hsp60遺伝子(56.6-99.6%)そしてrecA遺伝子(60.5-98.2%)の順に類似度は低かった。以上の結果より,Bacteroides属およびその類縁細菌群の分類においてもハウスキーピング遺伝子の利用は16S rRNA遺伝子(77.1-99.2%)と比較して有用であることが示された。また、6つの遺伝子を連結した塩基配列を用いてMLSAを行った結果、単一遺伝子の塩基配列から作成された系統樹に比べてブートストラップ値が向上し、種間の近縁関係をより明確にすることができた。
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