研究概要 |
タンパク質アルギニン脱イミノ酵素(以下PAD) はCa2+存在下でタンパク質中のアルギニン残基をシトルリン残基に変換する。哺乳類以外のPADに関する研究は極めて乏しく、近年のゲノム情報から、鳥類では3種類のアイソザイムが存在することが明らかとなった。本研究はニワトリPAD遺伝子群の機能解明を目的とした。まず、in silico 解析から、これらの3つのPADはそれぞれヒトtype I、II、III にオルソログであることが判った。よって、それぞれをcPAD1、cPAD2、cPAD3と名付けた。次いで、各ニワトリPADのcDNA クローニングとその全塩基配列を決定した。さらに、組換え型cPAD1-3 タンパク質のバキュロウイルス-昆虫細胞発現系を構築し、精製に成功した。cPAD1 並びにcPAD3 は哺乳動物のPADと同様にCa2+完全要求性であるが、両PAD は類似した基質特異性を有しており哺乳動物のPAD のそれとは大きく異なることが判った。PAD1 とcPAD3 は脳の各種組織、眼球の網膜に存在し、cPAD2はいずれの組織もその発現は認められなかった。cPAD1 は脳や延髄の神経細胞に局在し、網膜では水平細胞もしくは双極細胞の細胞質に局在することを明らかにした。一方、cPAD3は視葉、小脳、延髄のグリア細胞やオリゴデンドロサイトの細胞質に、また網膜では視細胞層の錐体・桿体細胞のラメラ構造体に局在することが判った。網膜のcPAD1,3が局在する組織には脱イミノ化タンパク質が存在することも明らかにした。これらのことから、cPAD1とcPAD3は視覚に関係することが推測された。最終年度の研究では、cPAD1とcPAD3の網膜における機能解明のために有用な、各cPADの過剰発現とsiRNAによる発現抑制、それぞれを可能とする鳥類アデノ随伴ウイルスの作成の成功した。
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