研究課題/領域番号 |
23580131
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片岡 邦重 金沢大学, 物質化学系, 教授 (40252712)
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キーワード | バイオ燃料電池 / マルチ銅オキシダーゼ / ラッカーゼ / 酵素電極 / 機能改変 |
研究概要 |
バイオ燃料電池の実用化に資するマルチ銅オキシダーゼの開発を目標に,平成24年度には以下の研究を行った。 1.新規ラッカーゼの発現系構築:貯穀害虫でモデル甲虫であるコクヌストモドキTribolium castaneumのラッカーゼ(TcLac2)について,N末端のCys残基に富む133アミノ酸残基からなる領域を削除した欠失変異体の発現系(平成23年度構築)に加え,構造遺伝子全領域の合成を行い,昆虫培養細胞を宿主とした異種発現系の構築を試みた。この結果,初めて活性を示すTcLac2の異種発現に成功し,野生型の分泌シグナルとCys残基に富む領域が活性発現に重要な役割を果たす事が明らかになった。 2.変異導入による既存酵素の機能向上:発現系を有する大腸菌の一価銅オキシダーゼ(CueO)の酸素還元三核銅部位の電位制御による酵素活性向上を目的として,三核銅部位近傍のTrp残基(Trp139)への変異導入と,三核銅部位への水チャンネルに対する変異導入(Gln451Ala)を行なった。Trp139Phe及びGln451Ala変異体の活性は,野生型酵素の50%程度に低下したことから,方向性は逆であるが,三核銅部位の疎水性を制御する事で活性をコントロールできる可能性が示唆された。また,ビリルビン酸化酵素のタイプI銅部位近傍の分子表面に存在するTrp残基をThr置換(Trp396Thr)することで,タイプI銅近傍のタンパク質内部への水の接近を容易にし,タイプI銅電位を負にシフトさせる事に成功した。以上の様に,銅中心の疎水的環境を改変することにより,マルチ銅オキシダーゼの銅中心の電位と酵素活性を制御する新たな方法論の開発に成功した。これまでの研究成果である水素結合による活性制御戦略を組み合わせる事で,マルチ銅オキシダーゼの機能改変の幅を広げることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規マルチ銅オキシダーゼの異種発現については,平成23年度には活性発現に至らなかったコクヌストモドキTribolium castaneumのラッカーゼ(TcLac2)について,初めてラッカーゼ活性の発現に成功し,機能解析に着手できた。しかしながら,組換え型TcLac2の発現量と活性は低く,今後,発現量と銅含量の増大を目指す必要がある。平成23年度に異種発現に成功した嫌気性細菌Clostridium beijerinckiiのラッカーゼ(CbLac)では,既存酵素の高活性化の経験に基づいて,変異導入による活性向上に取組んでいる。既存酵素の機能向上に関しては,CueOとビリルビンオキシダーゼを対象に,平成23年度までに行なった銅中心への配位残基及び配位残基への水素結合系を標的とする変異導入と異なる高活性化戦略として,銅中心の疎水的環境の制御による活性のコントロールを試み,その可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度も引き続きClostridium beijerinckii由来の新規ラッカーゼ(CbLac)について,タイプI銅部位近傍を標的とした変異導入による機能解析と機能改変を行う。CueOで確立したタイプI銅部位の電位制御戦略を適用しCbLacの高活性化を試みる。コクヌストモドキTribolium castaneumのラッカーゼ(TcLac2)発現系の改良を行い,高活性な酵素の高発現を目指す。さらに,既存酵素の高機能化を目標に,疎水的環境制御の方法論を用いて,大腸菌CueOのタイプI銅部位及び三核銅部位近傍への変異導入と,ビリルビンオキシダーゼのタイプI銅部位への変異導入を行ない,両酵素の高活性化を目指す予定である。また,連携研究者である京都大学加納健司教授の指導の下に,これら新規酵素及び高機能化改変酵素を対象に,カソード電極特性の解析とバイオ燃料電池の試作・検討,兵庫県立大学樋口芳樹教授の指導の下,X線結晶構造解析を行ないたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
酵素の機能改変を目的とした変異導入等に用いるプライマーの合成及びDNA配列解析など,遺伝子操作関係の委託費用を含めた各種試薬の購入費,酵素精製用レジン,ガラス及びプラスチック製実験器具等の購入費を消耗品として計上する。連携研究者である京都大学大学院農学研究科・加納健司教授および兵庫県立大学大学院生命理学研究科・樋口芳樹教授らとの研究打ち合わせのための旅費と,国内学会等における成果発表のための旅費,さらに,成果公表のための印刷費を計上する。
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