研究課題/領域番号 |
23580133
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山篠 貴史 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (00314005)
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キーワード | 概日時計 / 光シグナル / 温度シグナル / 進化 / 多様性 |
研究概要 |
植物の概日時計において進化的に保存されているコア回路を構成する因子として、CCA1/LHY(単一Myb型転写因子)、PRRファミリー(疑似レスポンスレギュレーター)、LUX/PCL1-ELF3-ELF4(Evening Complexと名付けられたGARP転写因子を含むタンパク質複合体)を同定した。これらの遺伝子発現に関して、高等植物・陸上基部植物を用いて解析した結果、CCA1/LHYオーソログは朝に、PRRファミリーは昼に、Evening Complexは夕方に発現ピークを示すことがわかった。上記3つのクラスの時計因子はすべて転写制御因子として機能し、三竦みのnegative feedback loopを形成して互いの遺伝子発現を調節していると推定されているが、詳細な制御機構を理解するために、シロイヌナズナにおいてPRR5によって転写制御される直接のターゲット遺伝子を、タグ付きPRR5を発現する形質転換体を用いたChIP-Seq解析と転写活性化ドメインと融合したPRR5を発現する形質転換体を用いたマイクロアレイ解析とを組み合わせることにより同定した。その結果、PRR5は時計因子CCA1/LHY遺伝子の発現を直接負に制御することに加え、概日リズムとして出力される遺伝子の発現をも直接負に制御していることが明らかとなった。PRR5によって直接負に制御される出力経路の遺伝子の中にはフィトクロム相互作用因子PIF4/PIF5が存在することを見いだした。PIF4/PIF5支配下の遺伝子発現を指標に、PIF4/PIF5が短日条件や高温条件での暗期後半に活性化することを明らかにした。これは、PIF4/PIF5の転写レベルでの概日リズムが温度によってmodifyされていることが原因であることがわかった。このことから概日時計は温度情報を統合して下流の遺伝子発現を調節できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的とした植物概日時計に共通の振動機構を明らかにすることができた。本研究の過程で、植物概日時計は温度と光のシグナルを統合して下流の遺伝子発現を調節することにより、伸長生長や花成を制御していることが示唆された。植物における温度シグナルの受容と応答のメカニズムは不明な点が多く、その制御に理解に時間軸の概念を導入して解析していくための基盤となる実験系を今年度に整えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
概日時計の進化と多様性を解析した過程で、概日時計が温度と光を統合して下流の概日リズムを調節できる可能性が示唆された。概日時計に温度と光がどのように入力され、その結果、概日時計の機能がどのように修飾されるかを今後明らかにしたい。また、概日時計を介した温度と光の高次な情報処理が、環境適応・多様な植物の伸長生長や成長相転換などを含む生存戦略に果たす役割について知見を得たい。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子発現の概日リズムを測定するために、mRNA抽出、リアルタイムPCR反応キットや、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、ヒメツリガネ ゴケに時計遺伝子や概日時計からの出力因子をコードする遺伝子を導入した形質転換体を作製するために、組換えDNA実験に必要な酵 素、培地など消耗品を中心に研究費を使用する。消耗品の支出に関して、できるだけ節約に努め、可能ならば、レポーター遺伝子の発 現を定量するための化学発光定量装置や、蛍光で観察するための蛍光顕微鏡を導入したい。
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