研究概要 |
前年度までの植物時計の進化に関する研究結果に基づいて、本年度は植物時計の多様性に関する新たな視点を導入して研究を実施した。モデル長日植物であるシロイヌナズナを用いた解析から、高等植物の花成は長距離シグナル分子として機能するFTによって誘導されることが知られている。本研究では、マメ化の長日植物ミヤコグサを用いて、花成誘導機構の普遍性と多様性を解析した。その結果、ミヤコグサにはFTホモログが3種存在し、LjFTaと名付けた遺伝子産物はミヤコグサにおいて長日条件特異的に発現し、これを構成的に発現するシロイヌナズナは早咲き形質を示すこと、すなわち、LjFTaはシロイヌナズナのFTと同等の機能を保持していることが明らかになった。一方、LjFTb1と名付けた遺伝子産物はシロイヌナズナの花成を阻害した。この結果は、ミヤコグサには機能の異なるFTホモログを複数存在していることを示唆している。また、シロイヌナズナではFT遺伝子を正に調節する転写因子としてCOが知られているが、ミヤコグサにはそのホモログ候補が見いだせない。そこで、FTの発現に関わる他の調節系であるmicro RNAに着目し、ミヤコグサゲノムに存在すると推定されるmiR172をコードしている遺伝子領域を同定した。同定した遺伝子をシロイヌナズナで構成的に発現させた形質転換体では、miR172が過剰に蓄積しており、早咲きの形質が観察された。このことから、FTを誘導する光周性花成経路は多様であることが示唆された。最後に、シロイヌナズナを用いて、進化的に保存されている植物時計のコア要素(CCA1, LHY, PRR family, ELF3, LUX/PCL1)の温度応答性を解析したところ、TOC1の概日リズムは暗期前半の温度入力に応答して位相が後退し、逆に、PRR9, PRR7の概日リズムは暗期後半の温度入力に応答して位相が前進することが明らかになり、植物時計の温度リセット機構を解明するための糸口となる研究成果を得ることができた。
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