研究課題/領域番号 |
23580134
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
矢中 規之 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (70346526)
|
研究分担者 |
加藤 範久 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (20144892)
和田 正信 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (80220961)
|
キーワード | choline / glycerophosphocholine / 3T3-L1 / clonal expansion / 脂肪細胞 |
研究概要 |
脂肪細胞の分化・成熟過程におけるGDE5の生理的役割について解析を行った.脂肪細胞内に中性脂肪の蓄積が認められるが,その脂肪滴の成長に伴って表面積が増大することから,表層のリン脂質一重層のphosphatidylcholine (PC)の生合成が深く関与し,PC合成のための細胞内のcholine (Cho)の供給が重要であると考えられている.そこで本研究では脂肪細胞におけるChoの供給経路に着目し,新規リン脂質代謝酵素であるGDE5によるglycerophosphocholine (GroPCho)の分解によるChoの供給,および生理的役割に関する検討を行った.細胞内Cho,およびPCの分解産物であるGroPChoの定量系をHILICを用いたLC/MS法により確立した.動物細胞で発現させたGDE5はin vitroの酵素反応においてGPCを基質として分解し,Choを産生した.マウス前駆脂肪細胞株3T3-L1においてGDE5をノックダウンさせたところ,細胞内のGroPCho濃度は5.6倍に上昇したことから,3T3-L1細胞内においてGDE5はGroPChoを分解することでChoの供給経路としての役割を担うことが示唆された.さらに3T3-L1細胞の脂肪細胞分化にともなってGDE5はRNAレベル,およびタンパク質レベルにおいて著しく増加し,また脂肪細胞の分化誘導に関わるPPARγのアゴニストであるTZDの添加によってもGDE5の発現上昇がみられ,脂肪細胞分化・成熟においてChoの供給経路としてのGDE5の重要性が示唆された.また,GDE5をノックダウンさせた際に,3T3-L1細胞の分化開始時のclonal expansionが抑制されたことから,GDE5によるCho供給を介したPCの生合成が阻害された可能性が示され,脂肪細胞の増殖におけるGDE5の新規な生理的役割が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GDE5の酵素活性の阻害を指標としたスクリーニング系の確立については,動物細胞で発現させたGDE5タンパク質の不安定性により研究を進める上で大きな問題が生じた. しかしながら,脂肪細胞の分化・成熟過程におけるGDE5の生理的な役割についての興味深い知見が見出された.脂肪細胞の分化過程におけるGDE5の発現を確認し,またPPARγのリガンド添加によっても発現量が増加し,脂肪細胞分化における生理的役割が示唆された.さらにLC/MS法の応用によって脂肪細胞内のglycerophosphocholine (GroPCho),およびcholine (Cho)濃度の測定が可能となり,GDE5の発現抑制により,著しい濃度変化が引き起こされることが明らかとなり,脂肪細胞におけるGDE5の生理作用が見出された. また,GDE5を発現抑制させた際に,3T3-L1細胞の分化開始時のclonal expansionが抑制され,GDE5の酵素活性による細胞内Cho供給を介したPCの生合成が阻害されたと考えられ,脂肪細胞の増殖におけるGDE5の新規な生理作用が強く示唆された.肥満白色脂肪組織では,脂肪細胞の肥大だけでなく,脂肪細胞の増殖による細胞数の増加が重要な要因であると考えられていることから,GDE5の肥満過程における病態因子としての可能性が示唆された点は極めて大きな成果であると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より,筋細胞分化、および脂肪細胞分化・成熟過程におけるGDE5の役割について検証を行ってきた.それらの生理的な役割について詳細な解析を行う. LC/MS法を用いたglycerophosphocholine(GroPCho)、およびcholine(Cho)の測定系の応用,また体積測定によって筋細胞内,および脂肪細胞内におけるGroPCho,およびChoの濃度計算を行い,細胞内のCho代謝物の量的な関係,およびGDE5の発現抑制した際の濃度変動を明らかにする.また,DNA microarray法による遺伝子解析を推進する.線維芽細胞,筋細胞,さらに脂肪細胞において,GDE5の発現抑制によって発現が変動する因子群を単離し,比較解析を行うことで,各細胞間で共通となる因子群(細胞内のCho代謝に関わると想定される),また,各細胞特有の機能性に関連した因子群(各細胞の分化・成熟化に関わると想定される)の分類を進め,重要な介在因子の機能解析へと研究を発展させる. GDE5が細胞内のCho供給の重要な調節酵素であることを明らかにするために,Cho欠乏食によって飼育した動物(マウス,およびラット)の白色脂肪組織,および骨格筋組織などのGroPCho、およびCho含量を測定するとともに,各組織のGDE5の発現量などについても解析を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
GDE5阻害による筋細胞分化誘導システムの解明,および脂肪細胞の増殖抑制経路の解明においては,両細胞およびマウス線維芽細胞株NIH-3T3細胞を用いてsiRNA法によってGDE5を発現抑制させ、DNA microarray法による遺伝子解析を行う。その際,LC/MS法を用いてcholine代謝物の濃度の解析についても行う.したがって,動物細胞の培養,および遺伝子導入や,DNA microarray法などによる遺伝子発現解析などの消耗品類や,LC/MS法に用いるカラム類や消耗品類に使用する。 また,コリン欠乏食による動物飼育実験においては,食餌飼料,および動物代など,動物飼育に関わる消耗品類に使用する.
|