研究課題/領域番号 |
23580142
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
森 昌樹 独立行政法人農業生物資源研究所, 耐病性作物研究開発ユニット, 上級研究員 (50192779)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イネ / 病害抵抗性 / 植物免疫 / シグナル伝達 |
研究概要 |
BSR1の下流遺伝子を同定するために、BSR1過剰発現イネとWTイネで発現レベルに差のある遺伝子をマイクロアレイにより比較した。BSR1過剰発現イネではWRKY45遺伝子を含むBTH(サリチル酸アナログ)誘導性遺伝子の4割以上が発現増大していることが示された。WRKY45の発現レベルをリアルタイムPCRで確認すると、BSR1過剰発現イネで10倍程度に増大していた。また、BSR1過剰発現イネで発現増大している遺伝子の半分以上はいもち病感染により発現が誘導される遺伝子であった。以上よりBSR1過剰発現イネにおける抵抗性の少なくとも一部は、WRKY45を含むサリチル酸経路を介していることが明らかになった。そこでBSR1とWRKY45やサリチル酸経路との上下関係を調べるために、BSR1過剰発現イネとWRKY45ノックダウンイネ、及びサリチル酸含量の低下したnahGイネを交配し交配種子を得た。またBSR1の本来の機能を明らかにするために、BSR1遺伝子をノックダウンするイネを作製した。ノックダウンレベルは50%程度であまり高くなかったので、さらにTOS17ミュータントパネルのPCR検索により、BSR1のエキソンにTOS17が挿入しているノックアウト系統を1系統得た。一方でBSR1タンパク質と相互作用タンパク質を単離・同定するために、BSR1タンパク質にHPB(HA-PreScissioin site-Biotinyl domain)タグを付けてイネ植物体で発現させた。またコントロールとしてGUS-HPBを高発現する形質転換イネを作製し次世代種子を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の1つはBSR1の下流で機能する因子の解明であったが、23年度はこの点で大きく進展した。WRKY45遺伝子を含むサリチル酸系の抵抗性に関連した多くの遺伝子がBSR1の下流に存在することが明らかになった。また2年目以降の研究に備えて、当初計画通りに相互作用タンパク質の同定用のタグ付きのイネを作製でき、ノックダウン及びノックアウト系統も取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に取得したBSR1のノックダウン或いはノックアウトイネで、病害抵抗性が低下しているかどうか検定する。つぎに、前年度の解析によりBSR1過剰発現イネで発現の上昇していた代表的な遺伝子の発現レベルが、ノックダウン或いはノックアウトイネで低下しているかどうか調べる。これによりBSR1の本来の下流遺伝子を明らかにする。得られた結果をもとに、BSR1下流の病害抵抗性に関わる重要遺伝子を同定するために、代表的な遺伝子をイネに導入・過剰発現し、BSR1同様の病害抵抗性が得られるかどうか明らかにする。つぎにnahGイネ, WRKY45ノックダウンイネとBSR1過剰発現イネを交配し前年度得られた種子について交配の成否を確認し、成功している場合は交配イネの発現解析や病害抵抗性検定等を通してサリチル酸経路の中にBSR1を位置づける。さらに前年度に作製したBSR1-HPB高発現イネ、コントロールイネを用いて、BSR1相互作用タンパク質を単離・同定する。BSR1-HPB融合タンパク質が多く存在する画分を分画後、タンパク質を架橋し、HPBタグを持つタンパク質をstreptavidinビーズに結合させる。溶出後、SDS-PAGEを行いコントロールと差のあるバンドを切り出し、定法に従ってLC-MS/MSで相互作用タンパク質を同定する。同定したタンパク質が本当にBSR1と相互作用するかどうか、in vitroの結合実験などで検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
イネでノックアウト系統を得るためにTOS17変異系統のPCRスクリーニングを行う必要があるが、この作業には通常費用と労力がかかるので、当初非常勤職員を雇用し担当してもらうことを考えていた。しかしながら農業生物資源研究所宮尾博士の協力を得ることができ、ほとんど費用と労力をかけることなく変異系統取得ができた。また、東日本大震災に伴う節電対策で隔離温室、培養室の面積が制限されたため、作製する形質転換イネの数を最小限に絞らざるをえなかった。そのため結果的に形質転換イネの作製、栽培、維持に必要な労力が減った。上記の理由から非常勤職員を予定していた期間雇用しなくても済むようになり、必要な試薬代も減少した結果当初予定額に対して未使用分が生じた。次年度は前年度未使用分と合わせた研究費を、BSR1遺伝子の機能解析をさらに深く行うために用いる予定である。具体的にはBSR1下流の重要遺伝子を同定するためには、多くの形質転換イネを作製する必要があるので、前年度未使用分を主に非常勤職員の人件費に充て、この部分を当初予定以上に精力的に行う計画である。
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