研究課題/領域番号 |
23580145
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 憲典 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (20312241)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | bHLH型転写因子 / イネ / 病虫害抵抗性 / ジャスモン酸 / シグナル伝達 / 傷害ストレス |
研究概要 |
本研究は、JAシグナル伝達経路の鍵転写因子であるMYC2やRERJ1によって直接発現制御を受ける標的遺伝子を同定し、これら転写因子の機能を明らかにすることで、JAシグナル伝達経路の全容解明を進めることを目的としている。23年度は、これら転写因子による直接的な標的遺伝子候補を絞り込むため、まず、RERJ1変異体を用いて傷害処理を与えた後に経時的トランスクリプトーム解析を行った。その結果、野性型株において傷害処理後0.5時間から1時間で強い発現誘導を受けるJA応答性遺伝子の中には、RERJ1欠損変異体において弱い発現誘導しか示さない遺伝子が存在することが明らかとなった。これらの遺伝子の中には、虫害抵抗性に関与すると思われるproteinase inhibitorの遺伝子やモノテルペン生合成に関与する遺伝子なども含まれていることも示された。また、RERJ1promoter-GUS形質転換体植物を用いた解析から、RERJ1は傷害部位のごく近傍でのみ発現しており、その発現場所とJAの蓄積部位が良く一致することが明らかとなった。これらの結果から、イネが昆虫による食害を受けた際には、その傷害部位で生産が誘導されるJAの蓄積に依存してRERJ1が発現し、虫害抵抗性に関与する種々の遺伝子の発現誘導を可能にしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していたトランスクリプトーム解析のうち、rerj1変異体を用いた試行については計画どおりに進めることができ、RERJ1の標的候補遺伝子を絞り込むことに成功した。一方、MYC2に関しては研究開始当初に計画していたRNAi株の作製を中止し、韓国ポハン大学で作製されたT-DNA挿入変異体を入手した後に行うこととしたため本年度は実施していないが、現在進行中であり概ね計画通りに研究が進んでいると判断する。また、直接の標的遺伝子同定のために計画しているクロマチン免疫沈降(ChIP)-sequence解析の準備として、ペプチド抗体の作製を進め、本抗体を用いて組換えRERJ1タンパク質に対する検出限界を明らかにした。こちらに関しても、順次、植物体サンプルを用いたChIP実験を開始するところであり24年度に向けて順調に準備が進んでいる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に作製し力価の確認を進めたRERJ1ペプチド抗体を用いてクロマチン免疫沈降実験を行う。そのため、イネ植物体の葉身を用いて核抽出を行った後にクロマチン画分を調整し、RERJ1ペプチド抗体を用いたChIPを行う。次に、トランスクリプトーム解析から絞り込まれた標的遺伝子候補の中から、そのプロモーター領域にE/G-boxを保持するものを選抜し、このシス配列を特異的に増幅するプライマーを用いた定量的PCR(ChIP-PCR)によって、in vivoにおけるこれら転写因子のE/G-boxへの結合を確認する。ChIP-sequenceは超高速並列型 DNA シーケンサーを用いて網羅的に解析する。ChIP-sequence の結果得られた DNA の配列データはイネのゲノム配列上にマッピングし、イネゲノム上における RERJ1の結合領域を網羅的に同定する。得られた当該転写因子の結合領域と、トランスクリプトーム解析から得られたレギュロンの情報とを照らし合わせることで、イネのJAシグナル伝達におけるRERJ1の標的レギュロンを絞り込む。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度はクロマチン免疫沈降実験に必要な生化学・分子生物学実験試薬を中心に消耗品費として研究費を使用するほか、研究の進行に合わせて次世代シーケンサーによるシーケンス解析の外注費用としても研究費の使用を予定している。研究成果報告として、24年8月に京都で開催されるMPMI会議、および25年3月に開催される植物整理学会、日本農芸化学会への参加を予定しており、それらに必要な旅費も計上している。当初計画どおり一式50万円以上の機器の購入は特に予定していない。
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