本研究は、JAシグナル伝達経路の鍵転写因子であるMYC2やRERJ1によって直接発現制御を受ける標的遺伝子を同定し、これら転写因子の機能を明らかにすることで、JAシグナル伝達経路の全容解明を進めることを目的としている。最終年度である25年度は、RERJ1による直接的な標的遺伝子の同定とそれらの標的遺伝子への転写制御様式の解析を進めた。これまでのトランスクリプトーム解析から判明していた、傷害処理にRERJ1欠損変異株において発現誘導が弱くなるproteinase inhibitor(PI)の遺伝子やモノテルペン・リナロールの合成酵素遺伝子(LIS)、また、JAシグナル伝達においてリプレッサーとして働くJAZ遺伝子等については、定量的RT-PCRを行うことで、それらの発現誘導の減衰や遅延が、RERJ1変異体で確かに起こることを確認した。さらに、RERJ1の遺伝子領域を含むゲノム配列を変異体に戻したRERJ1相補株を作出し、上記遺伝子の傷害処理時の発現誘導が回復することも示した。これまでのアワヨトウ食害に対する抵抗性低下の結果も考え合わせると、RERJ1がPIなど上記遺伝子の発現誘導を介して虫害抵抗性を発揮する際に必要な転写制御因子であることが明らかとなった。次に、PI遺伝子を含む数種のRERJ1標的候補遺伝子のプロモーターを用いたレポータージーンアッセイを行い、RERJ1による転写活性化について調べた。その結果、RERJ1をエフェクターをとして加えただけでは、転写活性化が見られなかった。また、今年度はイネのJAシグナル伝達経路の理解を深めるために、活性型JAとして知られるJA-isoleucineのイネ生合成変異株osjar1の解析を進め、RERJ1がJA-isoleucineに依存して発現誘導を受けることを明らかにし論文報告した。
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