研究課題/領域番号 |
23580148
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮下 正弘 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80324664)
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キーワード | plant immunity / cell penetration / oligo-arginine / effector protein / tobacco |
研究概要 |
植物は細胞外および細胞内で病原体の侵入を認識して防御応答を開始する。したがって、防御反応を引き起こす物質は、人為的に植物の防御能力を高める「植物免疫活性化剤」として用いることが可能である。植物による病原菌の認識は多くの場合、細胞膜上の受容体を介して行われる。それに加えて細胞質においても、病原体の注入するタンパク質(エフェクター)が植物によって認識され、防御応答を開始するが、その分子機構の解明は進んでいない。これはタンパク質を細胞内へ導入する実験手法に様々な制約があるためである。近年、細胞透過性ペプチドを用いたタンパク質の細胞内への直接導入法が様々な分野で注目されている。このペプチドは5-10残基程度の連続するアルギニン残基で構成され、これをタンパク質の末端に付加すると顕著な細胞透過性を付与することができる。そこで、本研究では細胞質における病原体認識機構の解明を目的として、細胞透過性ペプチドを用いた細胞透過型エフェクターの作製ならびにその活性評価を行った。 オリゴアルギニン配列を導入した細胞透過性エフェクター(AvrPto-R8)については、昨年度までに大量調製した。得られたエフェクターを、植物の抵抗性遺伝子産物であるPtoタンパク質を一過的に発現させたタバコ葉に注入し、防御反応の一つである過敏感細胞死を指標としてその活性を評価した。エフェクターが細胞内へ到達するとPtoとの相互作用により細胞死が誘導され、それにより細胞透過が確認できる。しかしながら、細胞透過性エフェクター(AvrPto-R8)を処理しても細胞死は誘導されなかった。その理由として、1)与えたタンパク質の濃度が低すぎたため細胞透過が効率的に起こらなかった、2)AvrPtoの活性発現に必要なN末端Gly残基のミリストイル化が起こらず不活性のままであったことが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞透過性を有するエフェクタータンパク質を作製は当初の予定通りに成功した。しかしながら、その活性評価の結果、このエフェクターは予想に反して顕著な防御反応を誘導しないことが判明した。ただし、弱いながらも防御反応を示す傾向が見られていることから、実験条件をもう少し改良することにより、予想通りの活性を示す可能性があると考えられる。 一方、オリゴアルギニン配列をペプチドN末端に導入したランダムペプチドライブラリの作製については、オリゴアルギニン構造を活性測定後に除去するための構造をライブラリ配列中に導入する実験を行ってきた。しかしながら、その導入効率がやや低いことが判明したため、この構造の導入法を改善する必要性が生じた。したがって、当初の予定より研究の進展がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
作製した細胞透過性エフェクタータンパク質は防御反応を誘導しなかったが、これは研究実績の概要に示したように、1)与えたタンパク質の濃度が低い、2)タンパク質が不活性であったことが理由として考えられた。特に、細胞透過ペプチドによる効率的な透過にはやや高い濃度を必要とすることが分かっていることから、処理濃度の低さが主要な原因であると考え、高濃度処理による効果を確認する。さらに処理後に細胞内に導入されたエフェクターの量を、質量分析計を用いて確認するとともに、細胞内でミリストリル化が実際に起こっているかどうかについても検討する。 また、オリゴアルギニン配列をペプチドN末端に導入したランダムペプチドライブラリの作製を進め、防御反応を誘導するペプチドのスクリーニングを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述した通り、ペプチドライブラリの本格的な作製が遅れており、その作製費用が次年度へ繰り越されることとなった。これと翌年度の研究費を合わせ、エフェクタータンパク質の活性評価ならびにペプチドライブラリのスクリーニングの実験を進めていく予定である。
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