研究課題
個々のインスリン様分子の機能(アゴニストかアンタゴニストか)を明確にするために、初代培養細胞を用いた。インスリン様シグナルの下流に位置する転写因子DAF-16にGFPを連結したタンパクを恒常的に発現する線虫を入手し、初代培養細胞を調製した。この細胞ではインスリン様シグナルがオフとなっているため、DAF-16::GFPは核内に存在した。ここに遺伝子工学的手法により調製した線虫のインスリン様分子(アゴニスト)を加え、インスリン様シグナルを亢進することにより、DAF-16::GFPを細胞質に移行させることに成功した。これによりインスリン様分子のうちアゴニストを評価することが可能になった。先年度の研究で発見した線虫の休眠・寿命を制御する新たなインスリン様遺伝子INS-35の詳細な発現パターン解析を行った。レポーター遺伝子ins-35p::ins-35::gfpならびにins35p::rfpを導入した遺伝仕組みかあえ線虫を作出し、各生育ステージならびに休眠前後の発現パターン解析を行った。ins-35p::ins-35::gfpは産生・分泌を含めてペプチドの挙動を示し、ins35p::rfpはペプチドの産生を示す。INS-35は主に腸で産生され、休眠前後での産生量には変動がなかった。ところが、産生されたINS-35は休眠時には腸管に蓄積していた。さらに、休眠期には経時的に分解されていた。このことから、1.休眠を抑制し通常の生育を維持させるINS-35は定常的に腸で産生され、腸から体腔へ分泌される。2.一方、休眠前には産生されたINS-35腸管に分泌され、通常の生育を維持できない。3.さらに、腸管に蓄積したINS-35は分解されアミノ酸となり再利用される、と推論した。すなわち、ペプチドホルモンの新たなシグナル制御機構を提唱することとなった。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度ではインスリン様分子の機能を細胞レベルで検証する系の構築に成功した。これにより個体レベルでは機能解析が困難な(個体には多種多様のインスリン様分子が混在する)インスリン様分子の機能解析が可能となった。また、平成23年度に発見したインスリン様ペプチドINS-35の詳細な解析を行い、新たなペプチドホルモン制御機構を提唱するに至った。以上の理由により、「おおむね惇緒うに進展している」と自己評価した。
平成25年度では初代培養細胞を用いて、アンタゴニストとして機能するインスリン様分子の評価系を構築する。これにより、アゴニスト・アンタゴニスト双方を評価することが可能となる。また、線虫の休眠・寿命を制御する新たなインスリン様分を探索し、詳細な機能解析・発現パターン解析等を行う。他のインスリン様分子との比較を行うことにより、インスリン様分子による休眠・寿命制御機構の全容解明に繋がるものと考えている。
平成24年度では消耗品の節約により33,898円の繰り越し金を捻出し、平成25年度の予算に組み込むことにした。平成25年度の研究を遂行するに際しては、消耗品の購入のみで十分であると考えられる。初代培養細胞の調製に必要な経費、遺伝子工学用試薬の購入に宛がう経費として使用する予定である。
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