研究課題/領域番号 |
23580151
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松井 健二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90199729)
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研究分担者 |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
小林 淳 山口大学, 農学部, 教授 (70242930)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | みどりの香り / 鱗翅目昆虫 / 絹糸腺 |
研究概要 |
鱗翅目昆虫ハスモンヨトウ、カイコガの幼虫絹糸腺抽出物に植物みどりの香り生成阻害活性を確認した。そこで、植物みどりの香り生合成経路を試験管内で再構築し、どのステップが阻害されるか検討した。その結果、絹糸腺抽出物はリポキシゲナーゼ生成物の脂肪酸ヒドロペルオキシドを分解することが明らかとなった。この時、280 nmに吸収極大を有する化合物が生成していることが確認でき、ケトジエン型脂肪酸へと変換されている可能性が示唆された。この活性は熱不安定で、分子量10,000以上の高分子であることが明らかとなった。このためこの活性の本体は高分子のおそらくはタンパク質性の酵素であることが示唆された。一方、カイコガに食害されているクワ葉からのみどりの香り生成量をSPME-GC/MSで精査した。その結果、単位重量当たりに生成されるみどりの香り量に比べて著しく低い量のみどりの香りしか放散されていないことが明らかとなった。また、捕食途中のカイコガ消化管内容物についてみどりのかおり生成量を定量したところ、やはり通常の破砕葉に比べ極めて低いレベルに抑制されていることが確認できた。同時に蛍光顕微鏡でクワ葉捕食中のカイコガ幼虫の摂食行動を観察したところ、わずかではあるが捕食中に絹糸を吐き出し、それを葉とともに摂取していることを確認した。こうした知見からカイコガ幼虫は捕食時に自分が出した絹糸を摂取することでみどりの香り生成を抑制することでより安全に摂食していることが示唆された。現在、当該酵素の精製を進めるとともに、生成物の構造解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
絹糸腺抽出物にみどりの香り生成阻害活性を見いだし、それがリポキシゲナーゼ生成物である脂肪酸ヒドロペルオキシドを分解してヒドロペルオキシドリアーゼに作用させない活性であることを明らかにでき、どの生成段階が阻害されているのかを示すことができた。また、カイコガ幼虫に補食されている場合とそうでない場合のクワ葉からのみどりの香り生成量を精査することによって絹糸腺の阻害活性が実際の摂食行動に密接に関連していることも示すことができた。こうした到達点は当初の目標と合致している。
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今後の研究の推進方策 |
絹糸腺が著しく発達しているカイコガを材料に、脂肪酸ヒドロペルオキシドをケトジエン型脂肪酸へと変換する酵素活性を指標に当該阻害因子を精製し、その構造を明らかにする。同時にLC-MS/MSを用い、生成物の構造を明らかにする。必要に応じてNMR分析を進める。精製が順調に進めば、共同研究者の小林とカイコの当該遺伝子のクローニングを進める。また、京都大学生態研の小澤はカイコガ、ハスモンヨトウ以外の鱗翅目昆虫でのみどりの香り阻害様式を検討し、こうした現象が鱗翅目昆虫に一般的であることを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度はもっぱら阻害因子の性質決定に集中し、主に生化学反応解析を進めたため酵素精製等に要する消耗品の使用を抑えることができた。性質決定がほぼ完了したため24年度からは酵素精製が必須となるが、酵素精製に、種々の精製樹脂、生化学試薬が必要となる。また、生成物の単離精製にもシリカゲルカラム等が必須である。精製が早くに進行した場合は直ちにその遺伝子の単離に進むが、その際、制限酵素やプラスミド等分子生物学研究試薬が必須となる。生成物の構造決定に際してはGCカラム、HPLCカラム、さらにはLC-MS用溶媒などが必要となる。11月の植物脂質科学研究会、3月の植物生理学会で成果発表し、議論を通じて研究を深化させる。京都大学生態研の小澤は他の鱗翅目昆虫でのみどりの香り生成阻害様式を検討するため、それにかかる昆虫飼育、GC-MS分析試薬が必要となる。
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