研究課題/領域番号 |
23580152
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
須貝 威 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (60171120)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 酵素合成 / 糖質化学 |
研究概要 |
本年度は当初に掲げた研究テーマのうち、以下の研究について重点的に検討した。L-フコース (1) は、白血球やがん細胞が血管内皮細胞と接着する際に関与するsialyl LeXや、血液型決定因子を構成する重要な糖だが、天然資源、フコイダンからの単離・精製には多大な労力が必要である。フコースをフラノース型で投影すると、アラビノースの非還元末端から一炭素増炭した関係にあることに着目し、まず、D-アラビノース (2) からL-フコースを得るルートを検討することとした。D-アラビノースより一段階で得られるアミノオキサゾリン(3)に対しN-Boc化を試みたところ、予想に反しO-Boc化も観察され、4aのみならず4bが得られてきた。生成物を収束させるようと触媒量のDMAPを添加し、改めてBoc保護を試みたところ、興味深いことに低収率ながら目的に適う、5-位のみ遊離となった4cが主生成物として得られるようになった。位置選択的保護については、アセチル体としてからリパーゼで加水分解する方法も試み、上記化学法とは相補的な選択性を見出すことができた。このように、原料からわずか一工程で得られる4cに対しDMP酸化を試み、増炭前駆体であるアルデヒド5を収率48%で得た。しかしMeLiやMeMgBrなどのメチル化剤を用いた増炭反応を試みたが、試薬の塩基性のためか3-位のBocオキシ基のβ-脱離が優先し、複雑な混合物を与えた。有機銅試薬や有機亜鉛試薬を用いたところ低収率ながらメチル化体(6)が得られた。現在、立体選択的増炭を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然に豊富な糖質の骨格と立体化学をそのまま活かし、目的とする位置への保護基導入に成功した。立体選択的一炭素増炭には多くの解決すべき課題が予想されるので次年度継続的に検討する。
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今後の研究の推進方策 |
計画調書記載の方法に則って実施予定である。具体的には、24年度実施を予定している、ニトロソウレア誘導体のクライゼン転位を活用する化学-酵素合成について検討する。カルバミル化合物の類縁体である、さまざまなウレア誘導体を合成する。このものをN-ニトロソ化し、不安定生成物をそのままクライゼン転位させ新規カルバミルアミノ化合物を得る。それらの生成物に対し酵素を作用させ、新規な光学活性オキサゾリジノン類を合成する。また、加水分解酵素を用いたグリカール誘導体の位置選択的脱保護を基盤に、希少糖合成を試みる。トリアセチル-D-グルカールは、グルコースより2段階で合成可能、しかも1,2位を修飾することができる化合物であり、さまざまな希少糖や2-アミノ糖類への変換が期待できる。しかし、それには3箇所のアセチル基を位置選択的に脱保護し、反応性の官能基を導入する必要があり、従来報告されている事例は、非常に多くの工程を要する。本研究では、まずトリアセチル-D-グルカールの3位および6-位のアセチル基を、リパーゼを用いて選択的にエステル交換・加水分解し特定位置の水酸基を遊離とする。それらの化合物に転位・環化などの位置・立体選択的な化学変換をほどこし、リパーゼ触媒に対する基質特異性を検討する。L-グルコース、N-アセチル-D-マンノサミン誘導体、N-アセチル-D-ガラクトサミンなどを究極の標的物質とし、上記の酵素-化学合成全体の効率向上をはかる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り、主として試薬・溶媒や器具などの消耗品費、および学会発表などの旅費として使用する。
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