研究概要 |
酵素触媒と有機合成をあわせて活用する物質生産プロセスの効率向上を目指し、反応速度論上のパラメーターが好適で、かつ反応媒体にもよい親和性を示す基質を分子設計、合成、大量供給を可能とする実用的な生産方法、合成経路、新規酵素機能について検討してきた。初年度(H23)は、L-フコース(1)の合成を目標とし、D-アラビノースより一段階で得られるアミノオキサゾリン(3)に対し、リパーゼを用いた位置選択的変換を達成した。H24には、リパーゼによる位置選択的脱保護を経て得られる、D-グルカール誘導体(4)をフェリエ反応に付し、生成するα-アノマー(5)からシアリダーゼ阻害剤の前駆体、4-O-メチルManNAc(6)を合成した。本年度は、前年度報告した (4)の類縁体(7)に対する反応を検討、セシウムアルコキシドを作用させると、アノマー位がβ配向の生成物(8)が得られることが判明した。立体化学はX線結晶構造解析で確認した。4-位ヒドロキシ基の配向を利用し、ペイン酸化の条件で立体選択的にエポキシ化、良好な収率でエポキシド(9)を得た。このものに対し、水酸化物イオンを求核剤として用い、エポキシドを位置選択的に開環、高い収率でD-グルコースの2,3,4-位を全て反転させた物質に相当するイドシド(10)へ変換した。ここから第一級アルコールを位置選択的に酸化、ラクトンの開環で、メチルエステル(11)を調製した。現在5位のエピメリ化によってL-グルコース(12)への変換を試みている。これまで、D-グルコースを出発原料として炭素骨格を切断することなくそのまま活かし、2,3,4,5-位の立体化学を全て反転させるようなアプローチは報告されていない。本法はこれを可能とするユニークな試みで、ラベル体合成など適用範囲が広いと期待される。
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