研究課題/領域番号 |
23580159
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
好田 正 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20302911)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 免疫寛容 |
研究概要 |
本研究では,アレルギーや自己免疫疾患の治療への応用を目指し,現在アレルギーの唯一の根治的治療法として期待されている減感作療法のメカニズムを分子レベルで解明することを目的としている. 本年度はまず始めに,in vitroにおいてT細胞に寛容と活性化を誘導する刺激条件を検討した.卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウス(DO11.10)の脾臓由来のTh1細胞を用いて,細胞を刺激する際に用いる抗CD3抗体やイオノマイシンおよびサイクロスポリンAの濃度を変化させることによって,免疫寛容および活性化を任意に誘導することに成功した.次に,この実験系を用いて免疫寛容と活性化の誘導の決定に関わるシグナル経路を同定した.上述の実験と同様にTh1細胞を抗CD3抗体で刺激することにより免疫寛容を誘導する際に,種々のシグナル伝達経路の阻害剤を添加したところ,JNK阻害剤およびmTORシグナル阻害剤の添加により寛容誘導が促進されることを明らかにした. さらに,これらの実験によって得られた結果を基に分子レベルでの寛容誘導メカニズムを解析するために,多量の抗原特異的T細胞を得ることができるように,DO11.10の脾臓細胞よりOVA特異的抗原未感作T細胞ハイブリドーマを樹立した.磁気細胞分離により目的細胞を分取し,フローサイトメトリーによりT細胞株が樹立できたことを確認した.現在,限界希釈法によりクローニングを行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の遂行において,実験の順番を当初の予定と変更したが,最終的には本年度の予定は達成できたと判断できる.当初の計画ではまずTh1細胞株を樹立し得られた細胞を用いて実験を進める予定であったが,抗原未感作T細胞の細胞融合効率が想定した以上に低く実験の遂行にあたり条件の検討などに時間を要したため,細胞株の樹立と並行して他の実験を行った.これらの実験は今後予定される分子レベルの解析に先立って細胞レベルでの応答性を解析することを目的としており,分子レベルでの解析と比較して実験に要する細胞数は少ない.その為,細胞株を用いなくともDO11.10マウスより得たT細胞を用いて実験をすることが可能であった.今後,分子レベルの解析を行う際には樹立したTh1細胞株を用いて刺激条件の確認を行う必要はあるものの,本年度にDO11.10マウスのT細胞で確立した条件はTh1細胞株を用いた次年度以降の実験にも適用出来ると考えられ,今後の研究スケジュールへ与える影響はほとんどないと考えている.さらに,Th1細胞株とDO11.10マウス由来のT細胞で同様な応答性が確認できれば,細胞株を用いて得られた結果が実際の生体内での応答を反映している可能性が強く示唆されるため,本研究の信憑性をより高めることに繋がると期待される. また,様々な条件を検討した結果,未感作T細胞の細胞株の樹立に成功した.T細胞の寛容および活性化の決定メカニズムの分子レベルでの解析,特に核内転写因子の解析には多数のT細胞を必要とするため,樹立したT細胞株は今後の研究を確実に遂行するために重要な意義をもつ.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に確立した種々の条件により,樹立したTh1細胞株を刺激し活性化および寛容化状態を誘導する.各刺激の数分から数時間後に細胞を回収し,細胞溶解の後,核タンパク質抽出液を調製する.得られた核タンパク質をウェスタンブロッティングに供し,寛容化を誘導する刺激でのみ活性化される転写因子(マスターレギュレーター)を同定する.解析の対象は本年度に同定した寛容誘導に関わるシグナル分子であるJNKやmTORの下流に位置する転写因子を中心とする. さらに,このマスターレギュレーターが,寛容化を誘導する際にどのような遺伝子の転写に関与しているかを網羅的に解析する.上記と同様に誘導したTh1細胞を寛容化の誘導条件で刺激し,刺激の直後に細胞を溶解して核抽出物を得る.同定したマスターレギュレーターに対する抗体でクロマチン免疫沈降を行い,当該転写因子が結合しているプロモーター領域を含む遺伝子断片を得る.得られたDNAを次世代シーケンサーに供して網羅的にシーケンシングすることで,寛容化に特徴的な遺伝子を同定する. 次に,T細胞を抗原刺激する際に,マスターレギュレーターの活性を調節することで活性化と寛容化を任意に誘導できることを実証する.DO11.10由来のTh1細胞をin vitroで抗原刺激する際に,薬剤もしくはドミナントネガティブ遺伝子の導入によりマスターレギュレーターの活性を人為的に調節する.細胞を1週間レスティングさせた後,再び抗原刺激し,抗原に対する応答性を評価する.各処理によるT細胞の応答性への影響を解析し,活性化と寛容化を任意に誘導できることを実証するとともに臨床応用へつながる薬剤の候補を獲得する.その後,活性化と寛容化をin vivoでも任意に誘導できることを実証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はマスターレギュレーターおよびそれにより誘導される遺伝子の同定とin vitroでマスターレギュレーターの機能を実証する予定である.前者のウェスタンブロッティングに約40万円,次世代シーケンサーを用いた誘導遺伝子の同定に約100万円を計上した.後者の細胞培養と遺伝子導入に約30万円を計上した.それぞれ,プラスチックおよびガラス器具,実験動物,試薬などの消耗品の購入にあてる.
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