本研究では経口減感作療法のメカニズムを細胞レベル,分子レベルで明らかにすることを目的としている. 前年度までに,アナジー化T細胞において発現が変化する遺伝子を次世代シーケンサーによって網羅的に解析すると共に,アナジー化の誘導決定においてカルシウムシグナルとJNKシグナルのバランスが重要な役割をもつ可能性を示した. 最終年度はアナジー化T細胞において発現量が変化する遺伝子の網羅解析について再現実験を実施すると共に,統計解析を行った.3種類の検定法を用い,全てにおいて両群間に有意差の認められた遺伝子を194個同定した.次に,アナジー化T細胞において発現が1.5倍以上に増加していた遺伝子の中から転写因子やエピジェネティック制御に関与している遺伝子を9個選択し,アナジー化刺激を受けた直後のT細胞における発現をRT-PCRによって解析した.転写因子であるEgr2がアナジー化刺激の直後に強く発現誘導されることが明らかとなり,Egr2がアナジー化T細胞への分化を制御する重要な因子である可能性が示唆された.さらに,アナジー化T細胞における遺伝子発現の変化に対するエピジェネティック制御の関与を網羅的に明らかにするため,アナジー化T細胞からDNAを抽出しバイサルファイト処理をした後に,次世代シーケンサーによってDNA配列を解析した.今後の解析によって,アナジー化T細胞における特定の遺伝子発現の変化がエピジェネティックに制御されていることを実証することで,アナジー化のメカニズムの全貌を理解することに繋がる成果である.また,ヒトT細胞株を用いて,異なった強度のJNKシグナルの共存下では,アナジー化と活性化の誘導に必要なカルシウムシグナルの強度が異なることを実証した. これらの結果はアナジー化の分子メカニズムの全貌を理解するとともに,アナジー化を人為的に制御する方法の確立にも大きく貢献をすると期待される.
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