ホエイと卵白の連続加熱工程における機器表面へのタンパク質の付着挙動解明を目的として、構成タンパク質の加熱時の凝集挙動とステンレス鋼表面への付着挙動との関係について解析を行ってきた。最終年度は、卵白タンパク質を主な対象としてステンレス鋼表面への付着挙動について検討した。 卵白アルブミン(OVA)、オボムコイド(OVM)、リゾチーム(LYZ)の付着量を各種条件下で比較検討したところ、クエン酸等の多価陰イオンの共存下で酸性タンパク質であるOVAとOVMの付着量が低減、塩基性タンパク質であるLYZの付着量が増加することが示された。これらの結果は、多価陰イオンがタンパク質に先んじてステンレス鋼表面に吸着し、静電的相互作用によってタンパク質の付着に影響を及ぼすと考えると説明できる。さらに、多価陰イオンを含む水溶液でステンレス鋼表面を予め洗浄した後に30~80℃の温度条件下で付着実験を行ったところ、付着温度によって程度に差はあるものの、OVAとOVMの付着が抑制された。この結果は上述の仮説の妥当性を支持するとともに、多価陰イオンによる予備洗浄が加熱条件下も含めたタンパク質付着抑制法として有望であることを示すものである。 小型連続加熱装置による連続加熱実験における加熱管内壁への付着経過を記述可能な速度論モデルの構築も試みた。前年度までの検討結果から、試料中のタンパク質のうち加熱時にステンレス鋼表面に付着可能な画分の濃度Cは、試料の熱凝集が進むと低下する。よって、連続加熱管内流れ方向の定常温度分布のみを考慮すると、濃度Cは加熱管内の位置の関数と考えられる。そこで、付着速度が濃度Cの一次反応で記述でき、アレニウス型の温度依存性をもつと仮定して、ホエイを試料とした連続加熱実験のモデル計算を行った結果、付着量と直接関係する加熱管内圧力損失を推算できる可能性が示された。
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