研究課題/領域番号 |
23580163
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
矢部 富雄 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70356260)
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キーワード | 食物繊維 / ペクチン / フィブロネクチン / Caco-2細胞 / ポリアミン |
研究概要 |
昨年度までに,フィブロネクチンがペクチンを認識する腸管上皮細胞局在タンパク質であること,さらにフィブロネクチンは食物繊維の化学構造を識別して特異的に結合していることを明らかにした。そこで今年度は,フィブロネクチンを介して細胞内に伝えられる情報を解析するため,腸管上皮細胞様モデル細胞としてCaco-2細胞を用い,ペクチンに対するCaco-2細胞応答の解析を行った。 まず,Caco-2細胞にペクチンを与えた際の細胞内代謝産物の変化をメタボローム解析によって調べたところ,細胞内のポリアミン量が減少していることが示されたことから,ペクチンに誘導されるポリアミン代謝関連遺伝子の発現量の変化をリアルタイムRT-PCRを用いて解析した。ポリアミン合成に関与するODC遺伝子,ポリアミン合成を調節するOAZ遺伝子,ポリアミン分泌に関与するSSAT遺伝子,ポリアミン再合成に関与するPAO遺伝子にそれぞれ注目し,ペクチンを細胞に添加6時間後のトータルRNAを回収した後に解析した。その結果,ペクチンを添加すると,ODCとSSATの遺伝子発現量が増加し,PAO遺伝子の発現量が減少することから,ペクチンによってCaco-2細胞のポリアミン合成が誘導され,さらにポリアミンが細胞外に分泌されていることが示唆された。 そこで次に,ポリアミンがペクチンの添加により細胞外に放出されているかを確かめるため,トランスウェルを用いた細胞培養によって培養上清を回収した後,塩化ダンシルを用いてポリアミンをダンシル化して標識し,HPLCによって分析した。その結果,ペクチン添加によって細胞外にポリアミンの一種であるスペルミジンが分泌されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィブロネクチンのレセプターとして知られている細胞表面のインテグリンが,ペクチンによる細胞応答に関与しているかについて今年度内に明らかにすることは出来なかったものの,ペクチンによる細胞応答としてポリアミン代謝関連遺伝子の発現量が変化すること,その発現量の変化から細胞外にポリアミン放出量が増加していることが示唆されること,そして実際に細胞外にポリアミンの一種であるスペルミジンの分泌量が増加していることを明らかにしたことは,Caco-2細胞においてペクチンを添加することで応答する代謝経路を解明するという研究の目的を達成したことにあたる。これは,本年度の当初の目標を十分に達成する結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,ペクチンとフィブロネクチンが構造特異的に相互作用することを示し,またCaco-2細胞を用いてペクチンによるポリアミン分泌が誘導されることを明らかにしてきた。そこで今後は,フィブロネクチンの細胞表面レセプターとして知られているインテグリンが,ペクチンに対する応答においても機能しているかについて,阻害剤を用いた実験等によって解明する。 また,これまでに明らかにされたペクチンによるポリアミン放出が,動物の腸管においてどのような生理作用に影響しているかを解明するため,ペクチンを摂取させたマウスの腸管の細胞群の変化を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が1円であるので,特に該当なし。
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