研究課題
発がん抑制活性を有するテルペノイドzerumbone (ZER、東南アジア産ハナショウガ由来) に着目し、その生体内標的分子の同定を試みた。Hepa1c1c7マウス肝臓がん細胞をZERで処理したところ、細胞内タンパク質の非特異的修飾が認められた。これに伴い、変性タンパク質を基質とするユビキチンリガーゼであるCHIP依存的に、細胞内タンパク質のユビキチン化が促進された。また、分子ローター色素を用いて、細胞内凝集タンパク質の検出を試みた結果、ZERを処理した細胞において顕著な陽性染色を認めた 。続いて、ZERがユビキチン-プロテアソーム系及びオートファジーを活性化する可能性について検証した。Hepa1c1c7細胞をZERで処理することにより、プロテアソームのキモトリプシン様活性が有意に増強し、また、オートファジーのマーカー分子であるLC3-IIの発現が増加した。さらに、ZERのオートファジー誘導機構の一部として、オートファジー促進遺伝子p62の誘導活性を見出した。p62は、異常タンパク質に対する選択的オートファジーの誘導に重要な分子であることから、ZERがその発現を誘導することで、タンパク質品質管理機構を活性化させる可能性を想定した。内因性の過酸化脂質分解物4-hydroxy-2-nonenal (HNE) で細胞を処理すると、HNE修飾タンパク質が増加し、細胞死が誘導された。これらHNEによるタンパク質修飾及び細胞毒性は、細胞をZERで前処理することにより、有意に緩和された。さらに、このようなZERによる細胞保護作用は、p62のノックダウンによりほぼ完全に消失した。以上の結果から、ZERはタンパク質修復系だけでなく、分解系を含むタンパク質品質管理機構を包括的に活性化させることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画では、ZERの特異的な標的分子を究明する予定であった。しまし、予想外に数多くのタンパク質に結合する特性を示したことから、そのプロテオストレス作用に着目し、結果としてタンパク質品質管理(protein quality control, PQC)機能の増強という、ファイトケミカルに関して初めての機能性を発見することができた。しかも本作用がZERに止まらず、ファイトケミカルに広く認められることの研究意義は少なくない。PQCを高く維持することは、がん、メタボリックシンドローム、さらにはアルツハイマー病などの神経変性疾患の予防にも寄与する。従って、新規な生理活性発現機構であるPQC活性化作用がこうした生活習慣病の予防にも貢献していた可能性がある。今後、PQCの活性化がどの程度の生理活性を説明できるのかを検証することは非常に重要である。
まず、PQCが関与すると考えられるがん、メタボリックシンドローム、さらにはアルツハイマー病などの神経変性疾患の原因は慢性炎症である。さらに興味深いことに、炎症関連酵素である誘導型NO合成酵素(iNOS)はプロテオストレスでプロテアソーム依存的に分解することが知られている。従って、ZERを含むファイトケミカルがプロテオストレスを介してiNOSを分解することで抗炎症作用を示している可能性がある。また、熱ショック応答の鍵タンパク質であるHSP90は細胞増殖や炎症惹起に関与する種々のタンパク質をクライアントとして結合しているがHSRによってそれらが脱離し、結果としてプロテアソーム依存的に分解することも知られている。従って、こうした生活習慣病関連タンパク質の分解に対するファイトケミカルの活性を評価することも重要である。
次年度では、PQC関連遺伝子を系統的に発現制御し、その際のファイトケミカルの活性を解析することで、生理機能の発現に対するそれらのPQC制御活性の寄与が評価できる。従って、siRNAが多種類、必要となる。また、TNF-aやIL-1bなどの炎症性サイトカインの分泌量の低量のためにELISAキットも必要である。さらには、標的タンパク質の発現解析のためにはウエスタンブロット法を用いるが、この目的のためには特異的抗体が必要となる。さらに、研究成果の公開・普及のため各種学会(日本農芸化学会、日本フードファクター学会、日本酸化ストレス学会など)で発表し、さらに論文発表のための費用(英文校正、別刷代金)なども計上する。
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