研究課題/領域番号 |
23580167
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金沢 和樹 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90031228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 8-オキソグアノシン / 脂質ヒドロぺルオキシド / DNA変異 / グアノシンの酸化 / 過酸化水素 |
研究概要 |
がんや糖尿病などの生活習慣病の直接の原因はその発症組織の細胞の遺伝子の変異である。変異は主に、DNA塩基のなかで酸化還元電位がもっとも低いグアノシンが8-ヒドロキシシグアノシン(8-OHdG)に酸化され、これがアデノシンと読み替えられることによると考えられている。しかし、8-OHdGを生じる生体内酸化因子は不明である。生体内酸化因子が明らかになれば、DNA変異を抑えて疾患予防は可能になる。本研究の目的は、酸化因子を明らかにして、8-OHdG生成を抑える抗酸化物を食品から見出すことである。一般的に酸化因子は過酸化水素と考えられている。しかし、過酸化水素がグアノシンを酸化するOHラジカルを発生するには2価鉄が必要であり、OHラジカルの寿命が1ナノ秒であることを考えると、DNAの近傍に過酸化水素と2価鉄が同時に存在しなければならない。この確率は低いと思われる。一方、生体膜を形成する脂質の酸化産物のペルオキシドの寿命は7秒である。ミトコンドリア膜や核膜で生じた脂質ペルオキシラジカルがDNAを酸化する可能性は高いと考えられる。そこで初年度は生体内酸化因子を明らかにすることとした。不飽和脂肪酸の一つのリノール酸のヒドロペルオキシドを98%純度に精製し、その400 マイクロMを塩基混合物、牛胸腺DNA、ラット肝細胞のミトコンドリアに添加すると、グアノシン10万塩基あたりの8-OHdGの数として、それぞれ1.6、4.0、209の生成が観察された。一方、同濃度の過酸化水素はそれぞれ0.2、0.5、7.8であった。また、リン脂質ヒドロペルオキシドを調製して同様に塩基混合物とミトコンドリアに添加すると0.65と23.8の生成が認められた。このように、8-OHdGを生成する生体内酸化因子は過酸化水素ではなく脂質ヒドロペルオキシドであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画は10項目とした。(1)「脂質ヒドロペルオキシドを高純度に精製する」と(2)「グアノシンの酸化産物である8-OHdGの検出定量法を確立する」は、研究技術であるので、これらを確立して研究を進めた。(3)の「脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)がグアノシンを酸化して8-OHdGを生成することを塩基混合物と牛胸腺DNAで調べる」は、いずれもLOOHの濃度依存的に8-OHdG生成が認められた。このことは、LOOHがDNAの酸化因子であることを示している。(4)「リポゾームを作成して脂質ヒドロペルオキシドによる8-OHdG生成を測定する」と、グアノシン10万塩基あたり16の8-OHdGが検出され、酸化していない脂肪酸の添加では検出されなかった。(5) 「過酸化水素による8-OHdG生成を測定する」と、塩基混合物と牛胸腺DNA での8-OHdG生成量はLOOHによる生成量の約8分の1であった。 (6) 「ラット肝細胞のミトコンドリアでの8-OHdG生成を測定する」と、LOOHは209の8-OHdGを生成し、過酸化水素はその25分の1ほどであった。そこで、(7)「ホスファチジルコリンのヒドロペルオキシド(PCOOH)を調製」し、(8)「肝細胞ミトコンドリアと継体培養細胞でPCOOHによる8-OHdG生成を過酸化水素と比較」した。PCOOHはミトコンドリアではLOOHよりも少ないが、明らかに8-OHdGを生成した。しかし過酸化水素による8-OHdG生成は認められなかった。以上の結果から、(9)「 8-OHdG生成機構」を、脂質ヒドロペルオキシドから生じた脂質ペルオキシラジカルがグアノシンの8位に付加することによると推定した。そして(10)「報文を作製」中である。このように、当初初年度の達成目標として計画した研究をすべて遂行した。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪酸ヒドロペルオキシド(LOOH)を添加したリポソームを用いて、ここに抗酸化物質であるアミノ酸誘導体のN-アセチルシステインやグルタチオン、ビタミンのアスコルビン酸やトコフェロール、フェニルプロパノイドのカフェ酸やアルテピリンC、フラボノイドのケルセチン、ルテオリンやエピガロカテキンガレート、イソチオシアナート類のスルホラファン、キサントフィルのフコキサンチンやアスタキサンチンなどを添加して、8-OHdGの生成抑制を測定する。抗酸化効果が認められた物質について、ミトコンドリアにLOOHを添加した系を用い、その抗酸化物質が濃度依存的に、あるいは閾値を持って8-OHdGの生成を抑えるか否かを測定する。そしてその抗酸化物質の最小抑制濃度を求める。同様に、HepG2細胞にLOOHを添加した系を用い、その抗酸化物質が濃度依存的に、あるいは閾値を持って8-OHdGの生成を抑えるか否かを測定する。そしてその最小抑制濃度を求める。上の試験で用いた抗酸化物質はいずれも経口摂取した場合に体内吸収されて血流を循環すると報告されている物質だが、この点を確認するために、効果が認められた抗酸化物質について、実験動物一群3匹に経口投与して血中から有効な化学形態で検出されることを確認する。仮にいずれの抗酸化物質も有効でなかった場合、少し特殊な食品、ハーブなどに含まれる成分、ロスマリン、ゼルンボンなどを測定する。そして、有効な抗酸化物質がどの日常食品に含まれているか、筆者の既報とそれらを一覧にした機能性成分含有表を参照して整理する。これらの情報をわかりやすく整理して公開する。また、一般向けのシンポジウムを開催して発表する。学術的には論文にまとめて国際誌に報告する。
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次年度の研究費の使用計画 |
リゾホスファチジルコリン、モノオレイン、オレイン酸、リノール酸をタウロコール酸で混合することで脂質膜をつくり、これにグアノシンを添加して、リポソームとする。そして、リノール酸の代わりにリノール酸ヒドロペルオキシド(LOOH)を用いて、酸化リポソームとする。リポソームと酸化リポソームでのグアノシンの酸化産物(8-OHdG)の生成量を測定し、酸化リポソームが有意に8-OHdGを生成することを確認して、以下の抗酸化物質を添加し、8-OHdGの生成抑制率から抗酸化効果を判定する。用いる予定の抗酸化物質は、アミノ酸誘導体のN-アセチルシステインやグルタチオン、ビタミンのアスコルビン酸やトコフェロール、フェニルプロパノイドのカフェ酸やアルテピリンC、フラボノイドのケルセチン、ルテオリンやエピガロカテキンガレート、イソチオシアナート類のスルホラファン、キサントフィルのフコキサンチンやアスタキサンチンなどである。これらを測定した後、抗酸化効果を示した物質について、ラット肝細胞ミトコンドリアにLOOHを添加した系を用い、その抗酸化物質の効果が濃度依存的であるのか、あるいは閾値がある効果であるのかなどの機序を調べる。そして、抗酸化物質の8-OHdGの生成を抑える最小濃度を求める。これらの結果を用いて、本研究のモデル系で効果があった抗酸化物質がヒト体内でも有効であるというバイオアベイラビリティを、その物質の報告されている生体内濃度と本研究で明らかにした抗酸化効果を示す最小濃度から評価する。
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