最近の疫学研究から、ビタミンE投与によってパーキンソン病(PD)発症が抑制される可能性が示唆されている。本研究ではビタミンE同族体としてトコトリエノール(T3)に注目し、細胞内シグナル伝達を介した細胞保護効果を明らかにする目的で、PDモデル細胞およびMPTP誘発PDモデルマウスを用いて研究を行った。 PDモデル細胞では各T3同族体が細胞保護効果を示したが、γ-、δ-T3の保護効果が相対的に優れていた。T3による細胞保護機序として、PI3K/Akt経路の活性化が認められた。 PI3K/Aktシグナルの上流分子として、既報告から候補分子を絞り込み、阻害剤およびsiRNAを用いた検討からエストロゲン受容体β(ERβ)を同定した。T3および3H-エストラジオールのERβへの結合競合実験により、T3のERβへの結合が確認された。ERを介したシグナルはカベオラ形成と深く関与していることが示唆されている。最終年度は、カベオラ形成がT3/ ERβを介した細胞保護効果にどのように影響するのかを検討した。カベオリンをノックダウンすることによりT3/ERβによる細胞保護効果が減弱したことから、ERβが細胞内に刺激を伝達する際にカベオラ形成が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらにMPTP誘発PDモデルマウスを用いてT3を中心とするビタミンEの効果を検討した結果、δT3がPD関連症状を軽減することが示された。また、ER阻害剤であるタモキシフェンの共投与によりδT3のPD抑制効果が減弱した。 以上の結果から、T3はPDモデル細胞およびPDモデルマウスにおいて抗酸化能以外にERβ/PI3K/Aktシグナル伝達経路を介した細胞保護機能を有していると考えられた。
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