研究課題
本研究課題は、SOD1欠損線マウス維芽細胞(SOD1 KO MEF)を用いた通常酸素あるいは低酸素培養により、有効な抗酸化活性あるいは酸素毒性をもたらす化学物質の鋭敏な検出系を確立する事で、従来ならば動物実験まで行って初めてその抗酸化活性や酸化ストレスによる毒性が示されたような物質を、培養系で容易に、短時間で検出する事を目指している。 本年度における実施状況としてまず、培養維持が可能であるかどうかさえわからなかったSOD1 KO MEFに関して、通常酸素培養と低酸素培養にて培養維持できる条件を決定する事が出来た。このことで、今後詳細な条件検討に用いることが可能になった。 続いて、培養条件を確立したSOD1 KO MEFの通常酸素培養と低酸素培養において、抗酸化活性の検出系を確立する目的で、既知のモデル化合物を用いて検出系の精度と再現性などに関して多面的な検証を行った。フラボノイド、カロテノイド、ビタミンC、Eなどの天然の抗酸化物質、グルタチオンやシステインなど多数の化合物を用いて検討した結果、高酸素濃度下でもSOD1 KO MEFを増殖させるビタミンcをはじめ、幾つかの物質で抗酸化効果を確認する事が出来た。しかし抗酸化効果が報告されている物質でも全く増殖効果が得られなかったものも多数あった。このことは、抗酸化能が知られている既知の物質においても、実際の生理的条件では有効に働く物と有効な効果が得られない物とがある可能性を示している。本研究の目的はそのような物質の選別を可能とする事であり、新規の評価系として本評価系が充分に機能する可能性が示された。
3: やや遅れている
本年度において培養条件を確立したSOD1 KO MEFの通常酸素培養と低酸素培養において、抗酸化活性に関して既知のモデル化合物を用いて検出系の精度と再現性の検証を行えたことは、評価できる結果であると考えられる。しかし、酸素毒性を与えるような有毒物質の検討まで十分に行うことが出来なかった事がマイナス点として挙げられる。 その理由として、SOD1欠損線マウス維芽細胞(SOD1 KO MEF)の初期培養条件の検討に時間を要したことと、既知の抗酸化化合物のそれぞれの投与濃度の条件決定に時間を要したためと考えられる。
次年度以降の予定として、1)今年度中に決定まで行えなかったSOD1 KO MEFの培養系での評価条件を決定する。2)SOD1 KO MEFが通常培養の酸素濃度を酸化ストレスと感知して細胞死に至る機構について、細胞周期関連の分子に注目して解析する。3)より再現性の高い検出系を構築するため、不死化細胞を樹立する。この3つを達成するために、まず1)に関して既知の影響が知られている標準化合物を用い、これまでに試みた20 %と1 %酸素濃度の他に、0.5 %、1 %、5 %でも行い、増殖曲線から最適条件を決定する。標準化合物の使用濃度に関して、更に詳細な条件を試み、最適濃度を決定する。2)に関して、細胞の酸化ストレスの状態を評価するために、次の項目について検討する。i. 細胞内活性酸素(過酸化物)をH2DCF-DAにて検出する。ii. 脂質の過酸化についてTBA法にて過酸化脂質を測定する。iii. 脂質過酸化物のうち細胞老化に関するHNEなどのアルデヒド類についてGC-MSを用いて定量測定を行う。iv. タンパク質の酸化の程度を、カルボニルブロットやBIAMによる-SH基酸化の検出を行う。細胞死に至る機構について、i. 細胞周期に関して、核染色とFACS解析を行い、核細胞周期にある細胞の比率を比較する。ii. 酸素毒性と細胞傷害の関連についてミトコンドリア機能に異常はないか、アポトーシス経路の活性化が起こっているかどうか、に注目して解析を行う。3)に関して、均質な結果を得られることを目的として、SV40ラージT抗原を用いる事で細胞を不死化し、安定したスクリーニング系として確立するためのSOD1 KO細胞株樹立の実験をおこなう。
今年度の予算に関しては、他の研究費で購入した試薬やキット、器具類を有効利用できた結果、本研究費の使用を最大限に抑える事ができた。 一方、研究開始段階では予想できなかったが、新たな装置類の必要性が生じてきた。培養細胞の酸化ストレスの評価に関連してその観察をより詳細に行うための倒立型蛍光顕微鏡や実体顕微鏡である。前年度からの繰り越しの予算を含めた今年度の予算では、これらの高価な装置の購入に充てる予定である。
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Journal of Cell Science
巻: 124 ページ: 3695-3705