近年、食品科学の分野において、気体を環状糖シクロデキストリンに包接させて粉末化することにより、果実の熟成を制御可能な素材の開発が実施されている。申請者は、1-メチルシクロプロペン(1-MCP)をCDに包接させた結晶作製に成功し、この結晶を含んだポリエチレンファイバーを含侵させる手法を開発した。1-MCPは、高いエチレン受容体への結合力を持ちppm以下の濃度のガスと果実を数時間暴露するだけで、著しく果実の熟成を遅延させることができる。エチレン(果実熟成促進剤)や1-メチルシクロプロペン(1-MCP、エチレン受容体結合阻害剤)といった植物ホルモンを、果実等包装紙コートする試みがなされているが殆ど実現していない。よって、本研究では、1)1-MCPのLi塩を合成後、1-MCPガスとα-CD溶液と接触させて1-MCP包接α-CDを作製した。2)この結晶を、ポリスチレンファイバーに包含させたナノファイバーをエレクトロスピニング法で作製し、その徐放速度に及ぼす湿度の影響ついて検討した。ファイバーからの1-MCP徐放速度は、湿度50%以上で1-MCPの徐放速度が湿度に依存して直線的に増加することを示した。3)エタノール中で微細結晶として有機ポリマーと一緒に膜フィルムをつくるために、エタノール中でのガス残留性を、1-MCPのかわるにエチレン包接α-CD結晶を用いて検討した。エタノール中でのエチレン包接α-CD結晶は、20分間結晶をいれていた場合でも60%のエチレンが残留した。以上の結果をもとに、1-MCP徐放性包装紙を作製するには、エタノールで安定な微細な結晶を作製する技術開発が重要であることが分かった。この技術が開発されれば、空気中の湿度に応答したフィルムが作製できると推察された。
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