研究課題/領域番号 |
23580177
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
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キーワード | Drug Delivery / Transferrin Receptor / Anti-infection / Ovotransferrin / Antimicrobial / Iron-binding / Pathogens |
研究概要 |
世界中で高い死亡率の一つである伝染病の治療のために、これまで数多くの抗菌剤の発見または開発がなされてきた。しかし、近年既存の抗生物質に対して抵抗性を示す「薬剤耐性菌」が増加し、それらの病原菌によって引き起こされる感染症が大きな問題となっている。そのため、耐性菌を生じさせないための独特の活性を持った新規抗菌剤を開発することが早急に求められている。スルファ系の抗生物質は強い抗菌作用を有していることから抗菌剤として非常に魅力的な物質であり、魅力的な天然の防腐剤として多くの研究がなされている。しかし、スルファ系の抗生物質は、細菌膜による細胞内への侵入阻害や水に難溶性であること、そして高濃度にすると強い副作用を示すことなどから薬剤として用いることへの制限が多くある。そこで、このような薬剤の難水溶性を改善する新たな戦略と、特異的なデリバリーシステムの開発が求められている。卵白オボトランスフェリン(OTf)は、鉄結合によって細菌の代謝に必要な鉄を奪うことで抗菌活性を示す。以前の研究によってNローブには抗菌性ペプチド(Nクリングルドメイン)が存在していることを明らかにした。このドメインは細菌膜において、孔隙またはイオンチャンネルをつくることが分かった。OTfのNクリングルドメインは、ドラッグデリバリーの役割を担うと考えられた。さらに、OTfは、細菌やヒト細胞の表面に存在するトランスフェリンレセプターに対して、選択的に結合することが明らかになった。したがって、OTfは、サルファ系抗生物質を細菌または感染された細胞へと運ぶ「キャリア―」として、新しいドラッグデリバリーシステムの開発に期待ができる。本研究では、様々なスルファ系の抗生物質とOTf及びその組換えNクリングルドメインの複合体を調整し、抗生物質の水溶性の改善とともに新たなドラッグデリバリーシステムの開発を目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで実験は、主にオボトランスフェリン(OTf)とその分離したNクリングルドメイン (Nローブ)と様々な水不溶性な抗生物質(スルファ系抗生物質であるスルファメトキサゾール及びスルファベンザミドまた殺菌剤であるトリクロサン)の相互作用を調べた。実験結果から、OTfとサルファ系抗生物質が相互作用してコンプレックスが形成され、抗生物質の難水溶性が改善されたことが確認できた。また、抗生物質-OTfコンプレックスは、OTfや抗生物質を単独で用いるよりも、様々な病原菌に対して強い抗菌活性を示した。OTf、Nローブまたはスルファ系抗生物質単体ではほとんど抗菌性を示さなかった細菌に対しても、スルファ系抗生物質とOTfのコンプレックスを形成させることで、抗菌活性を高めることができると分かった。さらに、細菌の細胞膜に存在するトランスフェリンレセプターとOTfの相互作用も確認できました。そして、ヒト大腸細胞であるHCT-116のトランスフェリンレセプターとOTfとそのNローブの相互作用をウェスタンブロットにより調べた。特に62kDa、51kDa、49kDa、30kDa付近に特に濃いバンドが検出され、したがって、ヒトの細胞膜に存在するトランスフェリンレセプターとOTfが結合していることが確認できた。OTfのNクリングルドメインの遺伝子をクローニングして、ピキア酵母にトランスフェ クションを行い、ピキア細胞外の発現の条件を確認しました。そして、OTfのNローブ(KGL-N 109-216)とC-ローブ(KGL-C 449-550)の遺伝子をクローニングし、ピキア酵母にトランスフェ クションを行い、ピキア細胞外の発現の条件を確認した。また。site-directed mutagenesis法によりNローブのシステイン残基136をグリシン残基(Cys136Gly)に変異導入した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにクローニングされたオボトランスフェリンの組換えN-ローブドメインとC-ローブドメインの薬物複合体を形成し、病原体に対する抗菌作用を調べる。ヒト大腸細胞及びマクロファージ細胞内寄生性病原体(サルモネラ、レジオネラなど) に対するオボトランスフェリンの組換えドメインの薬物複合体の薬物送達機構を調べる。特に、オボトランスフェリンの組換えドメインと薬物複合体との病原体膜及びヒト細胞の表面トランスフェリン受容体の相互作用について蛍光色素の標識的手法を用いて解析する。 さらに、オボトランスフェリンとそのドメインの薬物複合体が感染症に対する確実な治療法に至るため、様々な病原体で感染された細胞内に対するオボトランスフェリンと組換ドメインの薬物複合体の薬物送達メカニズム(細胞内導入キャリアとして細胞膜から細胞質へ移行のメカニズム)について分子学的手法を用いて解析する。一方、感染実験には、GFP遺伝子を配置したレポーター・プラスミド(pGFP vector)をサルモネラ菌(Sal. Typhimurium 及び Sal. enteritidis)に導入し、ヒト大腸細胞HCT-116にGFP遺伝子を持つサルモネラ菌を感染させ、レーザー顕微鏡又はFACS(フローサイトメトリー)により詳細に観察する。さらに、新規ペプチドベースの抗がん治療に向けて、オボトランスフェリンや組換えドメインの抗癌剤複合体を用いて分子レベルでの抗癌機能を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでにクローニングされたオボトランスフェリン及びその組換えN-ローブドメインとC-ローブドメインの薬物複合体を形成し、様々な病原体で感染されたマウス細胞内に対する薬物送達メカニズム(細胞内導入キャリアとして細胞膜から細胞質へ移行のメカニズム)について分子学的手法を用いて解析を行うこととした。さらに、国際シンポジウムにおいて研究成果を発表することとし、未使用額はその経費に充てることとした。
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