研究課題/領域番号 |
23580185
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
安藤 直子 東洋大学, 理工学部, 准教授 (70360485)
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研究分担者 |
峯岸 宏明 東洋大学, バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター, 研究支援者(COEポスドク) (30440019)
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キーワード | マイコトキシン / 解毒・分解 / 食の安全 |
研究概要 |
トリコテセンとは、Fusarium 属等が生産する、12,13-epoxytrichothec-9-ene骨格を有するセスキテルペンの総称で、タンパク質合成阻害作用を有する。トリコテセンに汚染された穀物をヒトや家畜が摂取することで、下痢、嘔吐、皮膚炎症、ATA症などの中毒症状を引き起こすため、食の安全を脅かす存在と言える。そこで本研究では、トリコテセンの解毒分解微生物のスクリーニングと、その該当酵素のクローニング、あるいは、解毒微生物を用いた効率的なトリコテセン防除法の確立を目指すこととした。平成23年度は、トリコテセンの中でも強毒性のT-2 toxinに対し、解毒分解活性を有する微生物のスクリーニング系の構築を行った。 平成24年度では、このスクリーニング系を用い、T-2 toxin解毒分解微生物の本格的なスクリーニングを実践した。スクリーニング法としては、①微生物の培養液にT-2 toxinを加え、TLCとHPLCでT-2 toxinの代謝を確認し、②96-well plateの寒天培地上にT-2 toxinを加えて微生物を成育させ、その寒天培地をくりぬいたものをT-2 toxin高感受性酵母を植菌した寒天プレート上に置き、形成される阻止円から、代謝物の毒性を判定した。以上のスクリーニング法を効率的に行える方法をプロトコール化した。その結果、8000コロニー以上の微生物を、数ヶ月の間にスクリーニングすることが可能となった。微生物の候補として、各地の土壌微生物、すでに同定済みの好塩性微生物を中心にスクリーニングを行った。さらに、土壌中で「分解者」を担うオカダンゴムシにT-2 toxinを経口投与し、得られた排泄物から微生物を培養しスクリーニングを行った。現在、16S rRNA遺伝子の塩基配列解析を用いた候補微生物の属種の推定、粗酵素の抽出と活性の確認を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成23年度)は、トリコテセン高感度検出系の構築とトリコテセン解毒分解微生物のスクリーニング、平成24年度には、本格的なスクリーニングの実践と、代謝物の同定、粗酵素の抽出と活性の確認、及び、16S rRNA遺伝子の塩基配列解析を用いた候補微生物の属種の推定を手がけた。 平成24年度は23年度に比べ、スクリーニングの効率が飛躍的に上がった。その結果、本研究室において、8000コロニーを超す菌体を約半年の間にスクリーニングすることができた。そのうち、約20~30%の菌体が、T-2 toxinの4位のアセチル化によって、弱毒性のHT-2 toxinに変換し、2%の菌体がさらに弱毒性のT-2 triolに変換することがわかった。それ以外の代謝物に変換させる微生物も存在し、HPLC上ではその代謝物を検出することができなかった。これらの微生物では、T-2 toxinが完全に解毒分解された可能性もあり得るため、“T-2 toxin解毒候補微生物”とした。これらの属種の推定を行ったところ、グラム陽性菌からグラム陰性菌、アーキアまで、非常に広い範囲の微生物が含まれることがわかった。 さらに、これらの候補微生物から粗酵素を抽出し、T-2 toxinやB型トリコテセンのdeoxynivalenol (DON)に対する活性を解析した。その結果、多くの粗酵素において、煮沸した場合にのみ活性が失われることから、反応が酵素依存的であることが示唆された。同時に粗酵素の至適pH、至適温度についても解析を行った。また、弱いながらも、DONに対し、活性がある菌体が1つ得られた。この菌体は、Variovorax属に属し、近縁種には多様な化合物を分解できる微生物の存在が知られているため、この菌体がトリコテセン解毒分解微生物として有望な菌体である可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、T-2 toxinからHT-2 toxin, T-2 triolに変換される菌体が数多く得られた。さらに、これらのT-2 toxinの脱アセチル化体ではない変換を行うものも30コロニーほど得ることができ、現在、それらのコロニーをT-2 toxin解毒分解候補微生物としている。今後は、まずこれらのコロニーによるT-2 toxinの最終変換産物を同定する予定である。そのために、LC-MSを使用する予定であり、必要があれば、NMRによる構造決定を行う。 しかし、平成24年度の研究からは、日本で多くの問題が指摘されているB型トリコテセンの解毒分解微生物が余り得られていない。そのため、今年度は、B型トリコテセンを直接のターゲットとしてスクリーニングを行っていく予定である。また、トリコテセンの解毒経路の1つに3位のアセチル化が指摘されているが、4位のアセチル基が入っている場合、3位のアセチル化は非常に起こりづらい。そこで、4位の脱アセチル化を特異的に行う微生物を見つけることは、トリコテセン防除のためにも重要になると考えられる。そこで、平成25年度には、B型トリコテセンの4位の脱アセチル化を行える微生物も、同時に探索する予定である。 これらの候補微生物が獲られた場合は、その該当酵素の精製とクローニングが最終目標となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後も有望な微生物のスクリーニングを続けるために、消耗品としてシャーレや培地を大量に購入する予定である。また、今後選抜されてくる望微生物の同定のために、PCRやシーケンスを行う予定であり、分子生物学研究用の高価な試薬の必要性が増すことになる。さらに、ターゲットとなる微生物を絞ることができれば、その粗酵素の抽出や、そこから酵素を単離していくためにカラムに研究費を使用する予定である。さらに、トリコテセンの代謝産物の同定のために、LC-MSを行う予定であり、そのための消耗品が必要となる。平成24年度では、当初の計画に比べ、候補微生物の数が少なかったため、塩基配列決定用の試薬などが少額ですんだ。その分の持ち越しの研究費は、LC-MSの消耗品にあてることとする。次年度は、現在のところ、特に備品の購入は行わない予定である。
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