研究課題/領域番号 |
23580192
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研究機関 | 富山県衛生研究所 |
研究代表者 |
小玉 修嗣 富山県衛生研究所, 化学部, 主幹研究員 (70360807)
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研究分担者 |
山本 敦 中部大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60360806)
會澤 宣一 富山大学, その他の研究科, 教授 (60231099)
多賀 淳 近畿大学, 薬学部, 講師 (20247951)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光学異性体 / 配位子交換 / キャピラリー電気泳動 / 有機酸 / 光学分割 / 金属イオン |
研究概要 |
キャピラリー電気泳動法の泳動間緩衝液として、多種類の金属イオンと多種類のキラル配位子を混合した〔金属イオン-配位子〕カクテルを用いて、有機酸類の光学異性体分析法の確立を目的とする。1 キラル配位子交換の分離メカニズムの検討 これまでの研究でD-キナ酸/Cu(II)イオンの濃度比の増加に伴ってD-酒石酸とL-酒石酸の泳動時間が逆転する現象をみつけている。この光学異性体分離のメカニズムについて、円二色性及び吸収スペクトル分析、分子軌道計算を用いて解析した。その結果、D-キナ酸/Cu(II)イオンの濃度比(1:1~3:1)が低いときには D-キナ酸-Cu(II)イオン複合体 (1:1) に D-酒石酸が優先的に結合し、D-キナ酸-Cu(II)イオン-D-酒石酸 (1:1:1) が生成しやすいのに対し、D-キナ酸/Cu(II)イオンの濃度比(8:1~12:1)が高いときには D-キナ酸-Cu(II)イオン複合体 (2:1あるいは3:1) に L-酒石酸が優先的に結合、あるいは配位子交換し、D-キナ酸-Cu(II)イオン-L-酒石酸 (2:1:1) が生成しやすいことを明らかにした。2 〔金属イオン-配位子〕カクテルの予備検討 配位子を D-キナ酸に固定し、金属イオン種(Al(III)、Mn(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Cu(II)及びZn(II)イオン)を変えて、リンゴ酸、酒石酸、イソクエン酸の泳動時間、光学分割能、及びピーク形状などを検討した。その結果、Cu(II)イオンを中心イオンとした場合、酒石酸だけしか光学分割されなかったが、他の金属イオンに比べてピークがシャープであり、泳動時間が短かった。 以上の結果から、1種類目の金属イオンとして Cu(II)イオンを選択することとし、現在、Cu(II)イオンと組み合わせ可能な金属イオン種を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 金属イオンとキラル配位子の種々の組み合わせについて 複数の有機酸を光学異性体分析可能な〔金属イオン-配位子〕カクテル組成を検討する 予備試験として、金属イオン:配位子の1:1の組み合わせについて光学分割能を検討した。金属イオンとして Al(III)、Mn(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Cu(II)、及び Zn(II)イオンを、また、キラル配位子として D-キナ酸、L-カルニチンやラクトビオン酸を用いた。その結果、Cu(II)イオンと D-キナ酸の組み合わせが有効であることが分かった。今年度得られた上記の結果は、複数種の金属イオン、あるいは配位子を混合する〔金属イオン-配位子〕カクテル組成開発の基盤となるものであり、予定どおりの進捗である。2 キラル配位子交換の分離メカニズムの検討について D-キナ酸/Cu(II)イオンの濃度比の増加に伴って D-酒石酸とL-酒石酸の泳動時間が逆転する現象を発見した。この現象を解明するために、円二色性及び吸収スペクトル分析、分子軌道計算により解析した。その結果、D-キナ酸/Cu(II)イオンの濃度比により、酒石酸の光学異性体間で配位しやすさに差があることを明らかにできた。金属イオンを中心イオンに用いた配位子交換法の分離メカニズムについてはこれまでほとんど研究されてこなかった現状では、非常に有意義な成果と考えている。本研究成果については論文にも掲載され、予定通りの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的は、有機酸の光学異性体を一斉に分析できる方法を開発し、食品などの実試料分析に適用することである。この解決法としてキラル配位子交換に基づくキャピラリー電気泳動法を提案した。これまでは1種類の金属イオンと1種類のキラル配位子を混合した泳動緩衝液が用いられてきた。しかし、この実験系では、アミノ酸類では多成分を光学異性体分析できるが、有機酸では多成分を光学異性体分析できていない。そこで、多種類の金属イオンと多種類のキラル配位子を混合した泳動緩衝液(〔金属イオン-配位子〕カクテルと呼ぶ)を用いることにより、多種類の有機酸を光学異性体分析できると考えた。前年度の研究成果を踏まえ、具体的には以下の点を検討する。1 前年度に検討した個々の金属イオンと配位子の組み合わせで得られた光学異性体分析の 結果に基づいて、〔金属イオン-配位子〕カクテルの組成比を解析する。この組成比について微調整等を加えながら、網羅的な有機酸分析が可能となる〔金属イオン-配位子〕カクテルの組成を決定する。2 食品や生体試料分析については、基本的に前処理操作を必要としないが、分析を妨害する複雑なマトリックス成分を含む試料を想定し、有機酸分析専用の前処理カートリッジ充填剤を開発する。3 前年度に検討した(Cu(II)イオン以外の金属イオンと配位子のうち、光学異性体分析可能な組み合わせについて、円二色性及び吸収スペクトルによる分析、及び分子軌道計算による解析から分離メカニズムを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1 昨年度の研究成果に基づいて、キラル配位子をD-キナ酸に固定し、Cu(II)イオンを第一中心イオンとし、それに他の金属イオンを種々濃度で混合し、有機酸類の光学異性体分離能を調べて、1種類の配位子と2種類の金属イオンから成る〔金属イオン-配位子〕カクテルの可能性を検討する。また、昨年度検討したキラル配位子以外の配位子についての検討とともに、2種類の配位子と2種類の金属イオンから成る〔金属イオン-配位子〕カクテルの光学異性体分析法の可能性についても併行して検討する。この検討のため、前年度使用した金属イオンや配位子などの試薬類に加え、新たに検討が必要となる金属イオンや配位子、及びキラルな有機酸などの試薬類を購入する。また、分析に用いるキャピラリー電気泳動装置の消耗品(バイアル、電極やUVランプなど)を購入する。2 実試料をキャピラリー電気泳動法で分析する場合、一般に簡便な前処理操作で行われている。しかし、妨害ピークが存在する可能性を考え、有機酸精製用の前処理カートリッジの開発を行う。この調製に必要な試薬や樹脂、及び器具類を購入する。3 前年度はCu(II)イオンとD-キナ酸を泳動緩衝液に用いた酒石酸の光学異性体分離メカニズムを検討した。同様に、光学異性体分析可能な金属イオンと配位子の組合わせについて、円二色性及び吸収スペクトル解析などにより分離メカニズムを明らかにする。この検討に要する試薬類や器具類を購入する。4 上記1~3の検討で得られた研究成果について、学会発表や論文投稿する際の費用に使用する。
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