本申請課題では、北海道北部の、択伐によって管理されている天然生林を対象として、1.森林の持つ複数の機能評価と、それらの森林の構造的な特性との関係を解明すること、2. 森林動態シミュレーションモデルの結果をもとに、量的・質的なガイドラインを含む森林管理モデルを提示することを目的とした。 1. 生物多様性の評価として、林床植生や森林棲鳥類に関する調査を進めた。それらと密接な関係を持つと考えられる森林の構造的な特性に注目すると、択伐林においては、下層植生の多様性や枯死木・樹洞(樹木内の腐朽)の量が、未施業の原生林に比べて少ない傾向が明らかになった。枯死木や樹洞、またそれらと密接に関わり、かつ木材生産上も重要な特性である樹木内の材の腐朽に関して、伐採を含む周辺環境の影響について明らかにした。一方、生態系炭素貯留の評価では、地上観測とリモートセンシング(航空機LiDAR測量と空中写真)を組み合わせ、長期的な変化を推定した。その結果、立木の蓄積を保つことができれば、択伐施業は炭素貯留の面で有効な施業方法になりうることが示された。 2. 本申請課題の中で構築してきたシミュレーションモデル(SORTIE/ND)に、上述の調査で新たに得られたパラメータ値の一部を取り込み、施業シナリオ分析を行なった。その結果、期首の林分構造および樹種組成を維持するためには、伐採の回帰年を長くして伐採量を少なくすることが避けられず、また小径木および針葉樹の伐採率を下げることが有効であることが明らかになった。そのような方法は、ある程度持続的に伐採量を確保できることから、長期的に見れば従来の方法より経済的に優れていると考えられた。
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