研究課題/領域番号 |
23580195
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
橋本 良二 岩手大学, 農学部, 教授 (80109157)
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研究分担者 |
星 比呂志 独立行政法人森林総合研究所, 林木育種センター育種第二課, 課長 (10370834)
柴田 勝 山口大学, 教育学部, 准教授 (30300560)
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キーワード | 林木育種 / 樹下植栽 / 初期成長 / 強光ストレス |
研究概要 |
森林総合研究所林木育種センター東北育種場に設定されている、ヒバ精英樹育種素材保存園とヒバ遺伝資源保存園の系統について、平成23年度に引き続いて、植栽個体の成長量の調査と葉の光合成色素の分析定量をおこなった。植栽個体は、すべて開地に生育していた。23年度の調査、分析において、地際直径、樹高、枝張長とも系統間に有意な差が認められ、光合成色素含有量等についても系統間で有意に異なっていたことから、今年度は成長量と光合成色素含有量との関係に注目して検討をおこなった。また、葉の組織レベルの性質の指標として、比葉重(面積あたりの乾重)と乾生比(生重に対する乾重の比)を取り上げ、成長量との関係を見た。1.成長量と光合成色素含有量との相関において、樹高では、相関係数の高いものから順に、αカロテン、クロロフィルa、クロロフィルb、βカロテン、VAZ(ヴィオラキサンチン、アンテラキサンチン、ゼアキサンチンの合計)、ルテイン、ネオキサンチンであった。直径では、βカロテンとVAZの順位が入れ替わった。相関係数は、とくにαカロテンで高く、樹高で0.45(p<0.01)、直径で0.41(p<0.01)であった。2.成長量と比葉重及び乾生比との関係において、成長量と比葉重との間に正の相関が認められ、相関係数は樹高で0.31(p<0.01)、直径で0.36(p<0.01)であった。一方、乾生比については、成長量がある大きさ以下になると、成長量が小さくなるにつれて上昇する傾向が認められた。3.開地適応系統の選抜に向けて、ヒバ精英樹育種素材保存園で扱った32系統について、成長量上位、中位、下位に区分し、各系統についてαカロテン含有量と比葉重との関係で散布図をつくり検討したところ、上位グループについてはこれら2変数が与える値により特定されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.保存園等での成長量調査 平成23年度は、ヒバ精英樹育種素材保存園(東北育種場)において98系統、各系統5個体について実施、ヒバ遺伝資源保存園(東北育種場)において43系統、各系統5個体について実施した。平成24年度も同様に実施し、加えて、ヒバ樹下植栽現地適応試験地(小岩井農牧(株)社有林)において32系統、各系統1から15個体について実施した。当初の計画に沿って実施し、目標を達成することができた。 2.光合成色素の分析及び成長量パラメーターとの関係の解析 平成23年度及び24年度、ヒバ精英樹育種素材保存園において31系統、各系統3個体について実施、ヒバ遺伝資源保存園において32系統、各系統3個体について実施した。光合成色素については、キサントフィル類5色素、クロロフィル類2色素、カロテン類2色素、合計9色素の分析定量をおこなった。分析定量は、再現性が良く高い精度でおこなうことができた。αカロテンが、他の色素と異なり、成長量に関して高い指標価値を持つことを明らかにした。こうした新知見を得ており、当初予定の達成度を満たしたと見ている。 3.光合成色素の量的組成と光化学反応系の機能 αカロテンの増大は、強光ストレス下での反応中心の保護と結びついている。成長量とαカロテン含有量との正の相関は、ストレス回避能力の優れたものほど良い成長を示すことを意味する。こうした論点は、反応系研究に一定の示唆を与えており、当初予定の達成度を満たしたと見ている。
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今後の研究の推進方策 |
1.採穂木の成長状態 林木の育種では、特定個体を選抜し、穂を採り、挿し木法、あるいは接ぎ木法により苗木をつくりクローンとして増やすが、穂を採る特定個体(採穂木)の年齢、大きさ、成長状態などが、クローン増殖される苗木の性質、とくに苗木の初期成長に影響することが考えられる。すなわち、各系統の苗木を試験地に植栽し、成長試験をおこなった場合、遺伝的なちがいとともに、採穂木の性質のちがいが出るのではないかと懸念される。この点、本研究でも、検証が必要であろう。 2.個体葉群内の変異 ヒバは植栽して間もない小個体であっても相当の年齢経ており、葉の年齢や着生部位により葉の成分や色素組成などの生理的性質が異なっていると見られる。こうした個体内での変異をとらえたうえで、系統内個体間、さらには系統間のちがいを見ていく必要があろう。成長量上位及び下位のグループについて、それぞれ5系統程度を選び、個体内変異についてよくチェックしておくべきであろう。 3.光合成色素の組成 光合成色素のうち、αカロテン含有量あるいはαカロテン含有量の比率が系統間で異なっていたが、これらが系統間の遺伝的なちがいによるかどうかは、上述のように判然としない面がある。こうした色素組成に関する遺伝機構について、関係する光合成研究者から情報を収集する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
現地調査の出張で、当初の予定期間を1日短縮したことで、繰越金が発生した。繰越金は、次年度、謝金等で使用する。 次年度助成金は、当初の使用計画にしたがい、分析のための試薬や器具、調査用具・消耗品等の物品費、研究結果を検討するための旅費として使用する。
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