研究課題/領域番号 |
23580199
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
石川 芳治 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70285245)
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キーワード | 水資源・水循環 / 土壌侵食 / 水質 / シカ / リター |
研究概要 |
丹沢堂平地区の斜面に幅2m×長さ5mの土壌侵食調査プロット10箇所を設置して4月~11月の間、1~2週間毎に土壌侵食量、リター流出量、林床合計被覆率を測定した。また、堂平地区を流域に含むワサビ沢(流域面積0.91km2)および堂平沢(流域面積1.41km2)と堂平地区の斜面(集水幅5m×長さ50m)の3箇所において、雨量計4台、水位計3台、濁度計3台を設置して降雨量(樹冠通過雨量)、渓流の流量、斜面の地表流の流量、渓流における濁度、斜面の地表流の濁度を4月~11月の間、10分間隔で測定した。その結果、斜面における土壌侵食量と渓流の濁度(浮遊土砂量)には正の相関があることが認められた。また、斜面地表流の濁度、渓流の流量と濁度の時間変化を流量-濁度(浮遊土砂濃度)ヒステリシスで表した結果、斜面地表流と渓流の濁度(浮遊土砂流出)の傾向が同様であることが分かった。このことから、流域の土壌侵食は渓流への濁度(浮遊土砂量)と密接な関係があることが分かった。平成24年度は季節変化について解析を行い、雨量1mm当たりの土壌侵食量および地表流の流出率ともに、春季、夏季、秋季の中では、夏季に最も大きく、次が秋季で、春季で最も小さくなり、明らかな季節変化があることを明らかにした。さらに、堂平地区の森林斜面、ワサビ沢と堂平沢の渓床・渓岸、渓流の浮遊土砂から採取した各試料の放射性セシウム134と137の濃度を測定した。その結果、放射性セシウムの濃度はセシウム134・137ともに堂平の斜面上部で高く、侵食されたと考えられる斜面中部・下部では低かった。さらに渓床・渓岸での濃度も低かった。堂平沢の渓流の浮遊土砂のセシウム137の濃度は斜面と渓床・渓岸の中間、セシウム134の濃度は森林斜面に近い比較的高い濃度であったことから、渓流の浮遊土砂は森林斜面から流出した侵食土砂が主体となっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はシカの食害により林床植生が衰退している丹沢山地のブナ林内の林床合計被覆率(林床植生被覆率+リター被覆率)の季節変化が山腹斜面における地表流流出量、土壌侵食量および下流域の水流出量および浮遊土砂量に与える影響を明らかにすることである。また、林床植生および堆積リターの水資源涵養機能、土砂流出軽減機能を明らかにし林床合計被覆率の変化から下流の渓流における水流出量や浮遊土砂流出量の変化を予測する手法を提示することである。平成23年度における現地観測とそれ以前からの現地観測結果から、ブナ林内の林床合計被覆率(林床植生被覆率+リター被覆率)と土壌侵食量および地表流の流出率にはそれぞれ負の関係があることが明らかとなっており、それらの関係式を求めることができた。平成24年度は、既往の観測データについて、春季(4~6月)、夏季(7~9月)、秋季(10~11月)の季節ごとに分けて、林床合計被覆率(林床植生被覆率+リター被覆率)と雨量1mm当たりの土壌侵食量および地表流の流出率の季節による違いを検討した。その結果、雨量1mm当たりの土壌侵食量および地表流の流出率ともに、春季、夏季、秋季の中では、夏季に最も大きく、次が秋季で、春季で最も小さくなり、明らかな季節変化が認められた。この季節変化は林床合計被覆率の季節変化に対応していると考えられる。放射性セシウム34,137の測定から斜面における土壌侵食量と下流の渓流の浮遊土砂量の関係がある程度明らかになった。しかしながら、斜面における土壌侵食量および地表流と下流の渓流における浮遊土砂量および水流出量の数量的な分析には至っていない。このことから、当初の目的の概ね8割程度は達成できたと考えられる。最終年度である平成25年度は観測データをさらに充実させるとともに、数量的な解析を進めることにより、当初の目的を完遂させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23,24年度に引き続き、平成25年度は堂平地区の斜面と下流のワサビ沢・堂平沢において4~11月の間、樹冠通過雨量、土壌侵食量、リター流出量、地表流流出量、渓流の水位・流量、地表流と渓流水の濁度、渓流の浮遊土砂量、林床合計被覆率、斜面および渓流における土壌・浮遊土砂のもつ放射性セシウム134、137の濃度を測定する。また、新たに斜面および渓流におけるリターのもつ放射性セシウム134、137の濃度を測定する。 平成23~25年度およびそれ以前からの観測データを用いて次のような解析を行う。①斜面におけるプロットスケールから流域スケールにおける、土壌侵食量と浮遊土砂量の関係、および地表流流出量と渓流における流量の関係、②林床合計被覆率が土壌侵食量、地表流流出量、およびリター流出量に与える影響と季節変化、ならびに、それらの季節変化が生ずる原因、③樹冠通過雨量、林床合計被覆率から斜面における地表流流出量を推定し、さらに、地表流の流速・掃流力から土壌侵食量を算定する手法を開発する。④林床合計被覆率と地表流の流れる斜面の粗度係数の関係を明らかにして、斜面から渓流に至る地表流の水流出のハイドログラフの精度の良い算定手法を提示する。⑤堂平流域におけるシカの食圧による林床植生の衰退とそれに伴う林床合計被覆率の分布の変化が流域の流量、浮遊土砂流出量の季節変化および年変化に与える影響をシミュレーションする手法を提示する。以上の成果を、山地流域の水資源管理、土砂管理、森林管理、シカ保護管理に利用する方法についてとりまとめ、国際会議や国内および海外の学会誌において広く成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は現在設置して観測を続けている、濁度計、水位計、雨量計、地表流量水計等のメインテナンス(電池の交換、故障の際の修理)に研究費を使用する。また、平成25年度に実施する現地観測(樹冠通過雨量、林床合計被覆率、土壌侵食量、リター流出量、地表流流出量、地表流の濁度、渓流における濁度、浮遊土砂量、土壌およびリターの放射性セシウムの濃度等)を円滑に実施するため、研究補助員の雇用に研究費を用いる。さらに、これらの多量の観測データを複合的、多面的に分析するため、研究補助員の雇用に研究費を用いる。研究成果を学会の研究発表会において発表するための旅費に研究費を使用する予定である。
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