シカの採食により林床植生が衰退している丹沢堂平地区の斜面に10個の土壌侵食調査プロットを設置して土壌侵食量、地表流流出量、林床合計被覆率(林床植生被覆率+林床リター被覆率)、降雨量(樹冠通過雨量)等を測定した。また、下流のワサビ沢、堂平沢と堂平地区の斜面の3箇所において流量、濁度、セシウム137の濃度等を測定した。平成25年度は斜面と渓流の流水のEC(電気伝導度)の変化を観測した。その結果、ワサビ沢および堂平沢では豪雨に伴い地表流が渓流に流れ込み、地表流の増加、ECの減少、濁度の上昇が生じていることを明らかにした。研究全体の成果としては、斜面における土壌侵食量のうち約8割は布状侵食量であり、雨滴侵食量は約2割であることを明らかにした。夏季においては春季や秋季と比較して林床合計被覆率が低くなるため、斜面における地表流流出率が増大し、雨量1mm当たりの土壌侵食量が増加することを明らかにした。このため、夏季には渓流の濁度および流量も増加することを明らかにした。 本研究の成果と意義をまとめると次のとおりである。①林床合計被覆率の季節変化が地表流流出量、土壌侵食量に及ぼす機構および影響を明らかにすることができた。②斜面におけるプロットスケールから流域スケールにおける、土壌侵食量と浮遊土砂量の関係、および地表流流出量と渓流における流量の関係を明らかにすることができた。③シカの食圧による林床植生の衰退とそれに伴う林床合計被覆率の変化が流域の流量、浮遊土砂流出量の季節変化および年変化に与える影響を推定する手法を提示することができた。以上の成果は、山地流域の水資源管理、土砂管理、森林管理、シカ保護管理に利用することが可能である。
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