研究課題/領域番号 |
23580204
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
木佐貫 博光 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (00251421)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 森林再生 / トウヒ |
研究概要 |
風媒花樹木の個体数密度が低下すると,樹木間の交配頻度が減少するため,樹木集団における遺伝的劣化が懸念される.森林衰退が進行している森林において,保全的観点から優占樹木種の自殖率の推定を行う研究は,緊急度が高い.そこで本研究では,森林の劣化が著しい大台ヶ原に生育するトウヒを対象に,交配成功度の指標として自殖率をDNA分析によって算出し,トウヒの繁殖成功度の評価ならびに母樹の個体数密度が自殖率にどの程度関与しているのかについて解明する.劣化した森林において,樹木の生育立地,繁殖成功度および遺伝的構造を解析し,今後の森林再生の可能性を実証的に評価するのが本研究の特色である. 1)トウヒ稚樹の生育状況の解明大台ケ原でもとくに森林劣化の著しい正木峠において,2002年に設置された稚樹調査区で,トウヒ稚樹の生残および樹高についての継続測定を行い,トウヒ稚樹の生育適地を明らかにすることを試みた.天然更新した稚樹は,劣化した森林の再生に直接関与するため,生育適地の解明とその確保が必要である.稚樹の生育適地を評価するために,稚樹の成長と生残について,稚樹を被圧するササの除去の有無や生育立地(林床微地形)間で比較した.トウヒ稚樹の生育状況について得られた解析結果の一部を中部森林学会で発表した.2)トウヒのマイクロサテライトマーカーの開発トウヒ母樹の自殖率や花粉親との距離を推定するために,トウヒのマイクロサテライトマーカーを開発した.研究協力者である津田吉晃氏の協力で,Tsuda et al.(2009a,b)の実験方法に倣い,トウヒ属樹木で既に報告されている約40種類のEST-SSRマーカーから,トウヒの個体間で遺伝的な多型を検出できる遺伝子座が得られるマーカーを選別した.これらのマーカーを用いて母樹25個体から得られた実生について一部解析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トウヒ稚樹の生育状況の解明については,学会発表する段階に至った.トウヒのマイクロサテライトマーカーについては,有用なマーカーの開発を終了した.以上の理由から,順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
大台ケ原正木峠に設置された稚樹調査区で,トウヒ稚樹の生残および樹高についての継続測定を行い,トウヒ稚樹の生育適地を明らかにする.稚樹の生育適地を評価するために,稚樹の成長と生残について,稚樹を被圧するササの除去の有無や生育立地間で比較を行う. 平成17年産の種子では既に3遺伝子座を用いて,成木集団の遺伝的多様性の解析ならびに,母樹の自殖率の推定についての解析が終了している.この遺伝子座に,前年度に選別したマイクロサテライトマーカーを加えた解析を行うことで,生残したトウヒ成木の,より精度の高い自殖率の推定を行う.DNAのマイクロサテライト分析によって得られる遺伝子型データから解析ソフトMLTRを用いて自殖率を球果単位および母樹単位で求める.また,平成21年産の種子を精選し,実験対象に加えて,母樹の個体数密度と自殖率との関係について調べ,年次変動の程度を確認する.さらに,母樹,種子の各集団について,遺伝的多様性の比較を行う. トウヒの自殖率に及ぼす成熟個体の個体数密度の影響を解明するために,母樹の個体数密度および個体サイズの計測を行う.トウヒだけでなく,それ以外の大径木を針葉樹と落葉樹ともに対象とし,立木位置の測量とサイズ測定を行い,全立木密度を算出する.
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に,日本生態学会大会に不参加であったため,未使用額33,343円の研究費が発生した.当該予算を24年度に行う学会大会参加に充てる計画である. 野外調査に関しては,平成23年度に行った,現地における稚樹の調査を継続する.とくに夏期において,奈良県大台ヶ原に調査出張を学生の協力を得て執り行う.現地調査に必要な旅費や,さまざまな消耗品を要する. 室内実験に関しては,本年度は,現地での新たな成木個体や,追加実験を行う種子からDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的多様性の解明と自殖率の推定を行う.このため,DNA抽出キットやPCR反応キットなどの試薬を必要とする.データ解析などのために文房具やデータ記録メディアなどを購入する. 学会発表のため,信州大学や静岡市などへの出張旅費を検討している.
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