本研究は、東南アジア熱帯雨林および日本の冷温帯落葉樹林を対象として、不均一な気孔開閉が起こるメカニズム(様式・頻度)を把握し、またそれが個葉や森林群落のガス交換過程にどの程度影響を与えているのかを定量的に明らかにすることを目的とした。 個葉における不均一な気孔開閉特性の把握を行うために、苗木および森林内の成木を用いて、個葉ガス交換速度の日変化を測定し、気孔開度の不均一性を考慮したガス交換モデルを用いて、実測値とシミュレーション結果との比較を行った。また各時間帯に、SUMP法を用いて葉の表皮のレプリカを取り、顕微鏡観察から気孔開度分布様式の把握(葉の中で均一あるいは不均一な気孔開閉が生じているか)を行った。その結果、東南アジア熱帯雨林および日本の冷温帯落葉樹林の広葉樹では、日中の強い光を受け、不均一な気孔閉鎖を伴った急激な光合成低下が起こっており、それを引き起こす主要因は飽差の上昇であることが明らかになった。さらに熱帯では、森林の階層構造の中で、上層に分布する樹木葉では不均一な気孔閉鎖が起こったが、中・下層の樹木葉では常に均一な気孔開閉が起こっており、気孔開閉特性に鉛直分布が存在することが分かった。また、ガス交換測定とクロロフィル蛍光画像測定を同時並行的に行い、葉内の気孔開度の不均一性の空間スケールを算出した。 半島マレーシアのパソ森林保護区でのフラックス観測結果とBig-Leafモデルを用いた計算から、不均一な気孔開閉は、個葉ガス交換特性だけでなく、群落全体のガス交換量にも影響を与えることを確認した。今後は、不均一な気孔開閉が起こる頻度や条件を推定する手法を確立する必要がある。 一方、リモートセンシング技術を利用して、熱赤外画像から樹種ごとに気孔・群落コンダクタンスを推定するための枠組みを合わせて開発した。今後は、森林内の樹種優占度も考慮した推定手法の改良が必要である。
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