北半球の高緯度地方にはスギ・ヒノキやマツなどの針葉樹が多く生育する。低温や乾燥等の環境ストレスに針葉樹は上手く適応することができるが、これは多くの被子植物にとって難しい。本研究では、針葉樹の環境ストレス耐性機構の解明を目指し、針葉樹に特異的な光合成の制御を明らかにした。 クロロフィル蛍光(光化学系IIの活性)および820 nmにおける吸光度(光化学系Iの活性)を測定し針葉樹の光合成制御の特徴を調べた。その結果、針葉樹では一般に、光照射下でチラコイド膜の電子伝達鎖の還元レベルが低く保たれることが分かった。この原因をクロロフィル蛍光測定を応用して調べたところ、針葉樹は葉緑体チラコイド膜の代替電子伝達反応の能力が被子植物よりも高いことが分かった。代替電子伝達は電子伝達鎖に過剰な電子が供給される場合に電子伝達鎖から電子を逃し、電子伝達鎖の過剰還元を防止すると考えられている。高代替電子伝達能は、グネツム類、ソテツ類、イチョウを含めた全ての裸子植物に共通する性質であった。 裸子植物の代替電子伝達について質量分析法(安定同位体の酸素16の発生と酸素18の吸収)で調べた。その結果、針葉樹(マツ、セコイヤ、ドイツトウヒなど)では光酸素還元反応の能力が高いことが分かった。葉緑体における主要な光酸素還元反応はメーラー反応(光化学系I下流での酸素還元)である。針葉樹では、メーラー反応および生成した活性酸素を無毒化する経路(water-water cycle)における電子のフラックスが大きいと思われる。本研究の結果は、環境ストレス耐性に優れた針葉樹の育種において、光合成における酸素依存代替電子伝達の能力がその指針となり得ることを示す。
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