研究実績の概要 |
野生植物の個体群動態に影響する主要な要因の1つであるウイルスの感染拡大メカニズムを理解することは重要であるが、研究は不十分である。特に、温帯植物の約7 割が行なっている無性繁殖による感染拡大に関する知見は少ない。森林に自生し、種子による有性繁殖とともにムカゴによる無性繁殖を行なうヤマノイモ自生個体群を用いて、JYMV,ChyNMVの両ウイルスが有性繁殖と無性繁殖を介して広がるメカニズムを明らかにするとともに、ウイルス感染によるヤマノイモの適応度の減少程度を評価することが目的である。 ヤマノイモのウイルス感染経路にはムカゴを通じた垂直伝播経路とアブラムシの吸汁による水平伝播経路(ウイルス葉で吸汁したあとにウイルスフリー葉に吸汁することで感染が広がる経路)が想定されていた。とくに、水平伝播経路では移動能力が高く探索吸汁を繰り返す有翅アブラムシの寄与が大きいと考えられている。本研究結果から、8月から10月の間にわずかであったが、新規感染が発見され、ヤマノイモ野生個体群においてもウイルスの水平伝播経路が確認された。 一方でウイルスに感染したヤマノイモ個体は弱光条件、低養分条件下では、ウイルスに感染しなかった場合に比べて遜色ない成長を行ったことから、野生植物の個体群動態に与える影響はウイルス種やウイルスとの共進化の歴史を再考するべきかもしれない。
|