本課題では、水欠乏により大量に作られるポプラのLEAタンパク質(late embryogenesis abundant protein、後期胚発生蓄積タンパク質)について、その生理学的な役割と生化学的な性質を明らかにすることを目的としている。 本年度、LEAタンパク質遺伝子の発現を詳細に解析したところ、土壌水分含量が低下するにつれて発現量が約900倍まで上昇していくこと、200mM塩化ナトリウムを与えると数時間で遺伝子発現が誘導され100倍から200倍に達すること、40℃の高温では有意な差が見られないが、4℃の低温にすると約130倍に発現量が上昇することを発見した。これらの結果は、ポプラのLEAタンパク質が、乾燥だけでなく高塩や低温など様々な環境ストレス応答に関与することを示唆している。 また、昨年度作製したLEAタンパク質を過剰発現する遺伝子組換えポプラについて、本年度は乾燥に対する耐性評価を行った。鉢上げしたポプラの苗木への灌水を停止し乾燥ストレスをかけたところ、過剰発現組換えポプラは、ベクター対照ポプラと同様に約2週間で枯死した。すなわち、緩慢で長期的な水分低下においては組換えポプラの乾燥耐性に変化はなく、組換えたLEAタンパク質遺伝子の影響がほとんど無いことが分かった。これは緩やかな乾燥ストレスでは内在性のLEAタンパク質の発現が水分低下とともに誘導されるため、遺伝子組換えの影響が現われにくいものと考えられた。今後、急激な又は短期間の水欠乏試験や耐塩性試験を行い、組換えポプラの解析を進める必要がある。
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