国内のカシノナガキクイムシは遺伝的に大きく二つの系統(通称“太平洋型と日本海型”)にわかれ、それぞれの系統はさらに細かく複数のタイプ(タイプ1~4)にわかれる(Hamaguchi and Goto 2010)。しかしこれら遺伝的系統を判別するには、分類学者に委ねるか塩基配列から検討するしか、これまで手立てがなかった。そこで本研究では分子生物学的手法による、より簡便な判別法を開発した。 平成29年度はDNA解析用サンプルの捕獲に適したトラップの選定を引き続き行った。保存状態のよいDNA解析用サンプルを得るためにはトラップ内での腐敗を防ぐことが重要である。そこでカシナガの採集に有効と考えられる複数のトラップについて、雨水の侵入という点から比較した。その結果、改良型衝突板トラップ(吊下)が最も雨水の侵入が少なく、捕獲頭数も比較的多かった。よって遠隔地などで長期設置する場合には改良型衝突板トラップが有効と考えられた。しかし短期に多数捕獲したい場合は他のトラップを使うなど、目的に応じた使い分けも重要と考えられた。トラップの保存液としては、プロピレングリコールを用いた場合にDNAの保存状態が長期間良好であることが確かめられた。 次に分子生物学的手法による判別法の開発・改良を進めた。まずrDNAを対象にPCR-RFLPによる判別法を検討した。太平洋型と日本海型はHphIなど複数の制限酵素で判別でき、RsaI、Fnu4Hとの併用でタイプレベルの判別も可能であった。またmtDNAを対象に特異的プライマーを用いた判別法の検討を進め、太平洋型と日本海型およびタイプ1~3を明確に判別するプライマーを作成した。タイプ4を判別するプライマーのみ作成できなかった。分類学的知識やシーケンサーを必要としないこれらの方法により、系統の違いに基づいた調査・解析がより手軽に行えるようになると思われる。
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